カテゴリー「pdr」の記事一覧
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「監督は何て?」
「一週間の謹慎と、それと次は無いと注意しておけと」
「へえ優しいじゃん」
「少しは反省しろ」
荒北はその台詞に皮肉っぽく笑う。福富が厳しい視線を彼に向けても悪びれた様子もなく、俺は悪くねえんだから当たり前だろと逆に笑みを深める始末だ。部室の床に行儀悪く座り込んだ彼は、片手でアーレンキーを弄びながら福富を見上げる。その頬は赤く腫れ上がっていた。歯が当たって切れたという唇の傷はまだ生々しく血で湿っている。傷口の手当ても適当にしているからきっと明日にはもっと腫れ上がってしまうだろう。福富がちらりと視線でその脇にある救急箱を示してみせるものの荒北はそれには反応しない。意固地である。つい一時間ほど前にそのせいで喧嘩を売られたことをこいつは一つも反省してはいないのだ。
「アイツはどうした」と荒北が尋ねるのに、喧嘩相手の三年の先輩は監督判断で一月は部活に出られないだろうということを伝えると荒北はいかにも楽しげに口元を吊り上げた。殴られた片頬が上手く持ち上がらないせいか、その笑みはどこか不恰好な感じがしてなおいっそう悪気が見え隠れしている。福富が眉を顰めると荒北はそれを見てまた声を立てた。
「傷は痛むか」
近付きながら福富がそう尋ねる。あと一歩の距離まで寄ったところで荒北は立ち上がって福富のほうを振り返った。口は先ほどとは打って変わって不機嫌そうにへの字に歪められている。何も言わないところを見るとまだ痛むらしい。
「口の中切って話しにくい」
「喧嘩の原因は?」
「あいつが吹っかけてきたんだヨ」
荒北のその口調はひどく剣呑なものだった。その中身を聞いているんだ、と福富が言ってもそれに返答する気は無いらしく、ただ不機嫌そうに眉を寄せている。
「もう喧嘩はするなよ」と福富が言うと、荒北は面倒くさそうに福富のほうに目をやった。
「何でお前に指図されなきゃいけねーんだよ」
「お前は俺が連れてきたからだ」
「ハッ、俺はお前のモンってか」
「違うか」
「全くどうしようもねえ奴だな!」
荒北が愉快そうにそう笑う。否定しないあたりお前もだろう、と福富はつい先ごろ自分が飼いはじめた躾の悪いペットを見る。気性の荒い、我の強い生き物である。しかし自分だけにはこいつはこういう顔を見せるのだ。福富はふとそう思って、自分の中に得体の知れない感情があることに気が付いた。
「二度とするなよ」
「もし喧嘩したら?」
「俺がお前を殴る」
「アア、それは悪くねえかもなァ」
荒北はそう言ってから唇の傷を舐めた。思わず目を逸らした福富の視界の端で、荒北が口の端を吊り上げていた。
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大抵のことについて、荒北は福富が「やめろ」と言ったことはやめるし「やれ」と言ったことには従うことにしている。別にそれは彼が判断基準を福富に全部預けてしまっているとかそういったことではなくて、ただ単に荒北にとってそれが最善だろうと思えるからなのだった。
「それにしたって」
呆れたように東堂が頬杖をついたまま苦笑する。テーブルを挟んだ向こう側、ペットボトルを持ったままぶすくれた顔をしている男に彼が向ける視線は生温いもので、見られている荒北にとっては非常に居心地の悪いものだった。
「何か文句あんのかよ」
「文句は無いがね。しかしいくらなんでも、と俺は思うのだよ」
「っせ、お前にゃわかんねえよ」
荒北はそう言って手元のペットボトルを机の上に置いた。中身のほとんど入っていないボトルがこん、と軽い音を立てる。緑色のパッケージ。それはいつも彼が好んで飲む青い缶の炭酸飲料ではなく、浅い色合いの緑茶であった。
東堂が微妙な表情をしているのはそのボトルのせいだった。
最近荒北が炭酸飲料ではなくお茶ばかり飲んでいることにふと気付いてしまったのが運の尽きで、その所以を尋ねたのが決定的にいけなかったのだ。
荒北曰くは非常にシンプルで「福ちゃんがあんまり飲むなって言うから」とただそれだけである。
「福にその理由は聞いたのか」
「別にィ。福ちゃんが言ってんだからそうなんだろ」
「お前はそれでいいと」
「俺がそうしてえからしてんだよ」
全く呆れた。東堂は言葉も無くしてただ荒北を見つめる。当の本人は何も不思議なことなんてないとしれっとした表情をしているが、世間一般から見ればそれが友情というものとはずれていると彼らは知っているのだろうか。
「荒北」
ふと呼ぶ声がしたのに振り向けば、見慣れた金髪が立っている。その手に握られている緑のボトルを見て東堂がふと思い出したのは「骨の髄まで」というありきたりな独占欲についての一節だった。
「それにしたって」
呆れたように東堂が頬杖をついたまま苦笑する。テーブルを挟んだ向こう側、ペットボトルを持ったままぶすくれた顔をしている男に彼が向ける視線は生温いもので、見られている荒北にとっては非常に居心地の悪いものだった。
「何か文句あんのかよ」
「文句は無いがね。しかしいくらなんでも、と俺は思うのだよ」
「っせ、お前にゃわかんねえよ」
荒北はそう言って手元のペットボトルを机の上に置いた。中身のほとんど入っていないボトルがこん、と軽い音を立てる。緑色のパッケージ。それはいつも彼が好んで飲む青い缶の炭酸飲料ではなく、浅い色合いの緑茶であった。
東堂が微妙な表情をしているのはそのボトルのせいだった。
最近荒北が炭酸飲料ではなくお茶ばかり飲んでいることにふと気付いてしまったのが運の尽きで、その所以を尋ねたのが決定的にいけなかったのだ。
荒北曰くは非常にシンプルで「福ちゃんがあんまり飲むなって言うから」とただそれだけである。
「福にその理由は聞いたのか」
「別にィ。福ちゃんが言ってんだからそうなんだろ」
「お前はそれでいいと」
「俺がそうしてえからしてんだよ」
全く呆れた。東堂は言葉も無くしてただ荒北を見つめる。当の本人は何も不思議なことなんてないとしれっとした表情をしているが、世間一般から見ればそれが友情というものとはずれていると彼らは知っているのだろうか。
「荒北」
ふと呼ぶ声がしたのに振り向けば、見慣れた金髪が立っている。その手に握られている緑のボトルを見て東堂がふと思い出したのは「骨の髄まで」というありきたりな独占欲についての一節だった。
カーテンを締め切った薄暗い部屋の中で、テレビの画面だけが浮かび上がっている。
フラッシュライトのように画面が白く染まった瞬間、隣にいる男の肩が揺れるのを感じた。クーラーが効きすぎるからと理由を付けて二人で膝に掛けているタオルケットの下で、ぐっと手を握りしめられる感覚。
福富はこっそりと視線を横へ向けて彼を見る。荒北は画面を食い入るように見つめている。あんまりこういうのは好きじゃない、と言ったのはどの口か、彼はいつの間にかすっかり夢中になっていた。
ありきたりなホラームービーだ。(こういったものの好きな後輩に聞けばこの映画はパニックムービーというのに入るらしいが。)最近部内で流行っているらしいことは知っていたが、まさか自分のところまでDVDが回ってくるとは思っていなかったらしい荒北がどんな顔をして福富の部屋を訪れたかは言わずもがなである。
「ビビりだって思われんのも癪だろォ」
どう言って押しつけられたのかと聞けばそう言う。こういった時に負けず嫌いというのは貧乏くじだと思うものの福富は口には出さなかった。
始まってからしばらくの間はバカみてえにちゃっちいな、だとかコドモ騙しだろ、とかそう言ったことを話していた。福富だってこういう類のものは得意ではないから荒北が話していると安心したりしたのだが、しかしどの辺りだっただろうか、中頃の、ヒロインが襲われるシーンになった頃にはもう部屋に響くのは映画のサウンドばかりだった。
くだらないし悪趣味だと思う。
それでもいきなり画面に血塗れの男が現れれば驚くし怖い。
福富はじっとりと手のひらに汗をかいている。荒北が福富の方へとさらに身を寄せると、福富の方も少し近付いた。同じタイミングで肩が跳ねたせいでがつんと骨同士が当たる音がした。しかしそんなことに構ってなんかいられない。不意に血が飛び散った瞬間に、荒北がひっと小さく声をあげたのが聞こえた。福富は何にも言えずに身をこわばらせるばかりだ。
「今日、こっち泊まる」
「頼む」
エンドロールをバックに掠れた声で荒北が言ったのに福富はそう応えた。こうなることは予測できたはずなのにそう出来なかったのは、きっと福富も負けず嫌いだったからなのだろう。
フラッシュライトのように画面が白く染まった瞬間、隣にいる男の肩が揺れるのを感じた。クーラーが効きすぎるからと理由を付けて二人で膝に掛けているタオルケットの下で、ぐっと手を握りしめられる感覚。
福富はこっそりと視線を横へ向けて彼を見る。荒北は画面を食い入るように見つめている。あんまりこういうのは好きじゃない、と言ったのはどの口か、彼はいつの間にかすっかり夢中になっていた。
ありきたりなホラームービーだ。(こういったものの好きな後輩に聞けばこの映画はパニックムービーというのに入るらしいが。)最近部内で流行っているらしいことは知っていたが、まさか自分のところまでDVDが回ってくるとは思っていなかったらしい荒北がどんな顔をして福富の部屋を訪れたかは言わずもがなである。
「ビビりだって思われんのも癪だろォ」
どう言って押しつけられたのかと聞けばそう言う。こういった時に負けず嫌いというのは貧乏くじだと思うものの福富は口には出さなかった。
始まってからしばらくの間はバカみてえにちゃっちいな、だとかコドモ騙しだろ、とかそう言ったことを話していた。福富だってこういう類のものは得意ではないから荒北が話していると安心したりしたのだが、しかしどの辺りだっただろうか、中頃の、ヒロインが襲われるシーンになった頃にはもう部屋に響くのは映画のサウンドばかりだった。
くだらないし悪趣味だと思う。
それでもいきなり画面に血塗れの男が現れれば驚くし怖い。
福富はじっとりと手のひらに汗をかいている。荒北が福富の方へとさらに身を寄せると、福富の方も少し近付いた。同じタイミングで肩が跳ねたせいでがつんと骨同士が当たる音がした。しかしそんなことに構ってなんかいられない。不意に血が飛び散った瞬間に、荒北がひっと小さく声をあげたのが聞こえた。福富は何にも言えずに身をこわばらせるばかりだ。
「今日、こっち泊まる」
「頼む」
エンドロールをバックに掠れた声で荒北が言ったのに福富はそう応えた。こうなることは予測できたはずなのにそう出来なかったのは、きっと福富も負けず嫌いだったからなのだろう。
「福ちゃん、あれ見たァ」
会話は大抵唐突に始まる。
「あれ、」
「あのあれだヨ。部室の」
「ああ。左に」
「片付けといた」
「すまないな」
「いいって。そういや明日って」
「三時だ」
「わかった、ありがと。後で部屋行くわ」
「なぁ、何であれで伝わるんだと思う?」
新開は机に頬杖をついたままそう尋ねた。視線は質問を投げた東堂の方ではなく、まだ会話を続けている二人の方にある。それは単語と単語をそのまま繋げただけの、それでいて外からはどこで接合されているかわからないものだった。
東堂は新開の質問に「さぁな」と一言答えただけで、またすぐに意識を携帯電話の画面へと戻してしまう。つれないな、と新開が言ったのには返答しなかった。タッチパネルに触れる指先は忙しない。きっと彼がライバルだと言ってはばからない、あの派手な髪の男にラブコールを送っているのだろう。
談話室の中には彼ら四人しかいないと言うわけではないが、けれども何だか自分がひとりぼっちみたいな気分になって新開は小さく鼻を鳴らした。それに一瞬東堂が顔を上げるが、わずかに口元に笑みを浮かべたばかりで構ってくれるつもりはないらしい。荒北と福富はあんな調子だし、まったく友達甲斐のない奴らめと新開は首を振った。
しばらくの間新開は東堂が楽しげに小さな液晶を覗きこんでいるのを眺めていたが、再び荒北と福富の方へと目をやってちょっと目を細めた。
二人の会話は続く。
「だからこう、」
荒北が手を持ち上げて指でぐるりと円を描くような動作をする。
「外回りで行く方が」
「タイムロスだ。それなら東からの方がいい」
「それじゃあダメだろ。見えなきゃ意味ねえし」
「なら直線だ」
「アア、それが一番いいかなァ」
「おめさんらよ、さっきから何の話してんの?」
新開がそう口を挟むとようやく二人は彼の方を向いた。まるでそこに彼がいたのをすっかり忘れていたみたいな意外そうな表情を浮かべている。ひでえ、と心の中で新開が呟いたことは二人にはきっとわからないのだろう。
福富はちらりと荒北の方へと目を向けてから「大掃除の話だ」と腕を組んだまま言った。
「大掃除?」
「ああ、部活をやっている生徒で分担して――」
「いやそうじゃなくて…」
「何だ」
「お前等の会話の繋がりがわっかんねえよ」
一言だって「掃除」なんて単語出てこなかったじゃないか。そう新開が言うと、二人は顔を見合わせてそうだったかななんてとぼけたことを言っている。どうしてあれで伝わるんだ、と新開が疑問を投げかけても当人たちも首を傾げるばかりだ。
「考えるだけ無駄だぞ、隼人」
互いに不思議そうな目で相手を見やる三人を見て、東堂が笑いながらそう言う。
「こいつらはそれで完結してしまっているのだ。外から見たってわかりっこない」
二人だけに伝わる言語がそこにはある。
ことり、とそこで東堂が手に持っていた携帯電話を置いた。ああ、と新開が声を漏らしたのは、相手は違えど東堂もその「言語」を持っているのだと気付いたからだった。
会話は大抵唐突に始まる。
「あれ、」
「あのあれだヨ。部室の」
「ああ。左に」
「片付けといた」
「すまないな」
「いいって。そういや明日って」
「三時だ」
「わかった、ありがと。後で部屋行くわ」
「なぁ、何であれで伝わるんだと思う?」
新開は机に頬杖をついたままそう尋ねた。視線は質問を投げた東堂の方ではなく、まだ会話を続けている二人の方にある。それは単語と単語をそのまま繋げただけの、それでいて外からはどこで接合されているかわからないものだった。
東堂は新開の質問に「さぁな」と一言答えただけで、またすぐに意識を携帯電話の画面へと戻してしまう。つれないな、と新開が言ったのには返答しなかった。タッチパネルに触れる指先は忙しない。きっと彼がライバルだと言ってはばからない、あの派手な髪の男にラブコールを送っているのだろう。
談話室の中には彼ら四人しかいないと言うわけではないが、けれども何だか自分がひとりぼっちみたいな気分になって新開は小さく鼻を鳴らした。それに一瞬東堂が顔を上げるが、わずかに口元に笑みを浮かべたばかりで構ってくれるつもりはないらしい。荒北と福富はあんな調子だし、まったく友達甲斐のない奴らめと新開は首を振った。
しばらくの間新開は東堂が楽しげに小さな液晶を覗きこんでいるのを眺めていたが、再び荒北と福富の方へと目をやってちょっと目を細めた。
二人の会話は続く。
「だからこう、」
荒北が手を持ち上げて指でぐるりと円を描くような動作をする。
「外回りで行く方が」
「タイムロスだ。それなら東からの方がいい」
「それじゃあダメだろ。見えなきゃ意味ねえし」
「なら直線だ」
「アア、それが一番いいかなァ」
「おめさんらよ、さっきから何の話してんの?」
新開がそう口を挟むとようやく二人は彼の方を向いた。まるでそこに彼がいたのをすっかり忘れていたみたいな意外そうな表情を浮かべている。ひでえ、と心の中で新開が呟いたことは二人にはきっとわからないのだろう。
福富はちらりと荒北の方へと目を向けてから「大掃除の話だ」と腕を組んだまま言った。
「大掃除?」
「ああ、部活をやっている生徒で分担して――」
「いやそうじゃなくて…」
「何だ」
「お前等の会話の繋がりがわっかんねえよ」
一言だって「掃除」なんて単語出てこなかったじゃないか。そう新開が言うと、二人は顔を見合わせてそうだったかななんてとぼけたことを言っている。どうしてあれで伝わるんだ、と新開が疑問を投げかけても当人たちも首を傾げるばかりだ。
「考えるだけ無駄だぞ、隼人」
互いに不思議そうな目で相手を見やる三人を見て、東堂が笑いながらそう言う。
「こいつらはそれで完結してしまっているのだ。外から見たってわかりっこない」
二人だけに伝わる言語がそこにはある。
ことり、とそこで東堂が手に持っていた携帯電話を置いた。ああ、と新開が声を漏らしたのは、相手は違えど東堂もその「言語」を持っているのだと気付いたからだった。
