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「15分でどこまで書けるかな」をコンセプトに書いた短文置き場です。
思いつくまま書き殴ってるだけ。

表記が無ければdrはシズイザ、pdrは福荒です。
時々全く関係の無いジャンルが混ざることもありますのでご注意を。


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※A/PH 朝菊


部屋の片隅にギターがあることに気付いて、私がそれをぼんやりと見つめていると、ドアを開けて入ってきた彼は少し照れくさそうな顔をして「あんまり得意ってわけじゃないんだけどな」とはにかんでいた。そのレスポールは随分と年季が入っている割にボディはピカピカで、弦の一本でさえもさび付いておらずよく手入れされているのがわかった。よくオイルの塗り込まれたネックはところどころすり減っていて彼の指の跡が見えるかのようだ。もうすっかり屋号も消えたヘッドの裏側に荒っぽく削り込まれた彼の名前を見つけて一人微笑む。
「弾いてくれないんですか」と私が言うと、彼はよせと口で言いながらも手に持ったティーポットとカップをテーブルに静かに置いて、楽器の方へと近付く。(彼のこういうところが私は嫌いではない。)
私は自分の座っていた椅子を彼に譲り、ソファの方へと移動した。彼は側の棚から慣れた手つきでピックを取り出すと確かめるようにそれを何度か握り直してから、楽器を持って椅子に腰掛けた。
軽くストロークする。コードはCだった。
次に軽く調子をつけてアルペジオ。音の端々が心地良い。
(ここで上手いなんてうっかり口にしてしまうと彼は照れて続きを弾いてくれなくなるだろうから私はじっと黙り込んでいた。)
コードをいくつかたどり、そうしているうちに徐々に音が張りつめていく。彼の指先が弦の上を滑るように聞いたことのあるフレーズを紡ぐ。
「これ、」
「好きだって言ってたろ。」
顔を上げた私にいたずらっぽく彼は笑いかける。エメラルドが柔らかい光を放つのにはっとした。

彼の国の音楽は荒っぽく、そしてある種退廃的だ。普段は紳士的なこの人が時折見せる表情とそれは非常に似通っている。そんな時の彼の声は低く掠れていて、私をぞくりとさせる。まるで歌声に熱狂する人々と同じように私もただの一人の人間みたいに彼の声に酔ってしまうのだ。 

メロディに合わせて、彼が囁くように歌う。低く掠れた声で歌われるのは彼の国が誇るロックバンドの代表的なヒット曲だった。皮肉っぽいその歌詞の中にふと甘い響きを見つけて、今度は私が目を伏せる番だった。


 

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※鬼灯 白鬼白


「ねえ、それって癖なの。」
僕がそう尋ねると目の前の男は露骨に不機嫌な顔をした。いやもしかするとここへ来てずっとそんな表情だったかもしれない。まぁさしたることでもないから覚えてなんていないんだけれども。こいつは僕のことが嫌いで俺はこいつのことが嫌いだっていうのは何千年も常識だったし、今更「実は好きでした」って言ったって信じてもらえないのも当然と言えば当然なのだろう。
僕は机の上に、鬼灯は側の椅子に腰掛けていた。生薬の作り方でわからないことがあると言ったこいつに、それなら実際に見た方が早いだろうとわざわざ呼び寄せたのが随分前。僕がとある言葉を放ったのがついさっき。それ以降ずっと二人ともこの体制から動いていない。
長い間じっと6つの目で見つめているというのに鬼灯はこちらに一瞥もくれず、ただひたすら指の爪を噛んでいる。右手の人差し指はもう見ていられないほどにガタガタだ。「お前の後ろの棚に爪ヤスリがあるのに」と言おうかと思ったが、それでこいつが止めるはずもないと気付いて口を閉じた。その代わりに僕はずっと男を眺めていた。ガタガタになった爪先をどうにか綺麗に整えようと噛み続ける姿は何かに似ている。
「あのさぁ鬼灯、お前嘘だと思ってるだろ。でも嘘じゃないんだよ。嘘だったらよかったなんて僕が一番思ってるし僕自身信じたくなんて無いんだけど、」
ガリッという硬質な音がして、男が一層眉を寄せる。僕は一度言葉を切った。鬼灯の人差し指から一筋の血が流れる。こいつにも血が流れているんだと少し驚いた。思わず机から飛び降りてその手を掴む。鬼灯がここへ来て、怒り以外の表情をしたのは久しぶりのことだった。
「鬼灯、僕はおまえのことが。」
「黙れ嘘つき。」
「嘘じゃないって、だからさ、僕は。」
僕を信じないのもお前の癖か。それとも信じていないと思うのが僕の癖なのか。
(どうしたらいいかわからない。)
きっと今僕はとても情けない顔をしている。女ったらしの名は余るほど他人からもらっているはずなのにこいつの前だと手癖の悪さだって直ってしまう。取り繕うとして慌ててまたボロが出る。これはまるで爪を噛むこいつと同じじゃないか。
男の口の端にも赤が移っていた。鬼灯の赤。僕はずっとこいつの血は青いもんだと思っていたのだ。
疲れたように息を吐く鬼灯の唇の端を舐めると、やはり鉄錆臭い味がした。


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