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※東堂と荒北
「山神様の言うことにゃあ」と自分で節を付けて歌ってみる。なんせ俺は全知全能の山神だから、こんなことを言ったって許されるのだ。
「ナァニ言ってんだこの馬鹿は。」
そう言って呆れた顔をする男は目の前にいるが、しかしながら俺を否定するわけではないようだ。目の前にいる痩せぎすの(実際は案外と見た目に似合わず屈強ではあるが)ひょろながい男は荒北という、俺のチームメイトでありまた本日の迷える子羊である。
「ナァ、それって宗教観念いろいろ混じってねェ?」
「細かいことは気にしてはいかんよ。」
「細かいことばっか気になんだよなァ。」
「そういうことばかり考えるから悩みなんてものを持つんだぞ、荒北よ。」
るっせと素早い返球。荒北は眉を寄せ机に頬杖をついて俺を睨んだ。放課後の教室に二人きりだなんて少しドキドキしそうなシチュエーションだが残念ながら俺の眼中にこいつは入っていないしこいつの眼中にも俺は入っていないから必要条件も十分条件も満たさずこの証明は成り立たない、つまりはあり得ないのだった。
荒北はどこか苛立ったような様子で椅子に腰掛けて俺を見ている。彼は俺の返答を待っているのだ。この山神様の返答を。この学校にはあまたの噂が蔓延っているが、その中でも一番信憑性と裏付けと事実とそれからビジュアル面で信頼できるのは『悩み事があったら東堂尽八に聞け』というものであると俺は自負している。何を隠そう俺はそう言ったことにはほとんど神懸かり的に鼻がきくのだ。(こう言うと必ず荒北はうさんくせえと言うのだが、俺に悩みを相談しにきている時点でそちらの負けであるからそろそろ認めた方がいい。)
今日の相談者たる荒北の悩みは甚大なものであった。ここで「あった」と表現したのは俺の中ではもうこの問題は解決しているからである。荒北の悩みというのは非常に厄介で、かつ自分一人では解決しようもないことだが俺がこうして相談に乗ってやることですべては綺麗に片付くだろう。
「つまりは、」
俺はそこで一旦言葉を切って、息を吐く。もったいぶるなと荒北の目線が訴えかけているがしかしここでもったいぶらなければどこでもったいぶることができようというのだ。折角の場を台無しにされたくないから俺は荒北から一瞬目を逸らし、気分を元に戻す。そうしてそれから口角を持ち上げて言葉を放つ。
「それが愛というものなのだよ、荒北。」
「ハァ?愛ィ?」
「そう、愛だ。英語で言ってやろうか?ラブというものだよ荒北。お前は愛に取り付かれているのだ。」
「なんか言いぐさ悪ィなぁ。」
「そうかね。けれども事実なのだから仕方あるまい。お前がどれだけ目を逸らそうとも逃げようともそれはどこまでも付いてくるぞ。目に見えないからこそ確かなものはこの世にこれ一つきりだ。」
「そんでェ?俺ァどうすりゃいいの?」
「もうすでにわかっているだろう。俺の話はもう終わりだ飼い狼。」
「山神のくせに随分適当じゃねえの。」
「だって俺は山の神だぞ。人の子のことなんて知ったことか。」
そんなもの鬼にでも食わせてしまえと笑ってやると荒北はふんと鼻を鳴らしてから立ち上がった。
「なるほど全知全能ネェ。」
「納得したか。」
「ああもう十分に。」
それならば去れと俺はひらひらと手を振る。神というものはこういうものなのだと言ってやれば、狼は小さく肩を竦めて笑った。
「山神様の言うことにゃあ、」
機嫌良さげな声が聞こえる。俺はふふんと軽く笑ってその背中を見送った。男が小さく節を付けて歌いながら向かう先がどこかなんて俺にとってはわかりきったことなのだ。
「山神様の言うことにゃあ」と自分で節を付けて歌ってみる。なんせ俺は全知全能の山神だから、こんなことを言ったって許されるのだ。
「ナァニ言ってんだこの馬鹿は。」
そう言って呆れた顔をする男は目の前にいるが、しかしながら俺を否定するわけではないようだ。目の前にいる痩せぎすの(実際は案外と見た目に似合わず屈強ではあるが)ひょろながい男は荒北という、俺のチームメイトでありまた本日の迷える子羊である。
「ナァ、それって宗教観念いろいろ混じってねェ?」
「細かいことは気にしてはいかんよ。」
「細かいことばっか気になんだよなァ。」
「そういうことばかり考えるから悩みなんてものを持つんだぞ、荒北よ。」
るっせと素早い返球。荒北は眉を寄せ机に頬杖をついて俺を睨んだ。放課後の教室に二人きりだなんて少しドキドキしそうなシチュエーションだが残念ながら俺の眼中にこいつは入っていないしこいつの眼中にも俺は入っていないから必要条件も十分条件も満たさずこの証明は成り立たない、つまりはあり得ないのだった。
荒北はどこか苛立ったような様子で椅子に腰掛けて俺を見ている。彼は俺の返答を待っているのだ。この山神様の返答を。この学校にはあまたの噂が蔓延っているが、その中でも一番信憑性と裏付けと事実とそれからビジュアル面で信頼できるのは『悩み事があったら東堂尽八に聞け』というものであると俺は自負している。何を隠そう俺はそう言ったことにはほとんど神懸かり的に鼻がきくのだ。(こう言うと必ず荒北はうさんくせえと言うのだが、俺に悩みを相談しにきている時点でそちらの負けであるからそろそろ認めた方がいい。)
今日の相談者たる荒北の悩みは甚大なものであった。ここで「あった」と表現したのは俺の中ではもうこの問題は解決しているからである。荒北の悩みというのは非常に厄介で、かつ自分一人では解決しようもないことだが俺がこうして相談に乗ってやることですべては綺麗に片付くだろう。
「つまりは、」
俺はそこで一旦言葉を切って、息を吐く。もったいぶるなと荒北の目線が訴えかけているがしかしここでもったいぶらなければどこでもったいぶることができようというのだ。折角の場を台無しにされたくないから俺は荒北から一瞬目を逸らし、気分を元に戻す。そうしてそれから口角を持ち上げて言葉を放つ。
「それが愛というものなのだよ、荒北。」
「ハァ?愛ィ?」
「そう、愛だ。英語で言ってやろうか?ラブというものだよ荒北。お前は愛に取り付かれているのだ。」
「なんか言いぐさ悪ィなぁ。」
「そうかね。けれども事実なのだから仕方あるまい。お前がどれだけ目を逸らそうとも逃げようともそれはどこまでも付いてくるぞ。目に見えないからこそ確かなものはこの世にこれ一つきりだ。」
「そんでェ?俺ァどうすりゃいいの?」
「もうすでにわかっているだろう。俺の話はもう終わりだ飼い狼。」
「山神のくせに随分適当じゃねえの。」
「だって俺は山の神だぞ。人の子のことなんて知ったことか。」
そんなもの鬼にでも食わせてしまえと笑ってやると荒北はふんと鼻を鳴らしてから立ち上がった。
「なるほど全知全能ネェ。」
「納得したか。」
「ああもう十分に。」
それならば去れと俺はひらひらと手を振る。神というものはこういうものなのだと言ってやれば、狼は小さく肩を竦めて笑った。
「山神様の言うことにゃあ、」
機嫌良さげな声が聞こえる。俺はふふんと軽く笑ってその背中を見送った。男が小さく節を付けて歌いながら向かう先がどこかなんて俺にとってはわかりきったことなのだ。
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