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カテゴリー「drrr」の記事一覧
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※来神


「あっ」
と思って口に出した時にはもう身体は宙に浮いていて、きょとんとした顔をしたままの友人一号やしまったという顔をした親友かつ僕を投擲した彼が慌てている様子が見えて、さて僕の後ろにいるはずの男はどんな顔をしているのかななんて人事のように思いながら僕は飛んでいた。感覚と意識が剥離されていて、もしかして走馬燈ってこういうふうなもんかななんて思っているこの間おそらくほんの数秒。フェンスにぶつかるかと衝撃に身構えるものの、幸か不幸か、まぁこの場合明らかに不幸に決まっているんだけれど、そこには柵も手すりもなにもなくって(そういえばこの間そこの金髪の彼がフェンスをぶん投げているのを見たな)横方向に飛んでいた私の身体は今度は緩やかに下降を始める。ふと視界の中に黒髪が映る。あ、臨也の奴笑ってる。ひどいなぁ親友が自分のせいで落下しちゃってるっていうのに薄情な奴め!その手を掴んで共々この世から消えてヴァルハラにでも連れていってやろうかと手を伸ばすものの掴んだのは空気だけだった。らしくなく舌打ちが出そうになったがそこは紳士的であれという愛しの彼女の言葉を思い出してとどめて、僕はただ目を瞑る。ごうと風が鳴りながら耳元を通り過ぎていった。やれやれどうしてこう彼らといると災難ばかり被るんだろうか。こんなところで死にたくなんてないのに。そう思いながら僕はただ、時が過ぎるのを待つ。

「おい新羅!落ちてんじゃねえよてめえ!」
「シズちゃん、自分で投げといてそれはないんじゃない?」
「うるせえ、そもそも臨也、てめえが余計なこと言って俺をキレさせたんだろうが、」
「そういうのってさぁ、『理不尽』って言うんだよ、知ってる?ああシズちゃんみたいな野蛮な奴が知ってるわけないよねえ。」
「殺す、ぜってえ殺す、」
「おい、何でもいいから早く引き上げてやれよ。」
全く彼の言うとおりである。右足首が非常に痛い。おそらく片手で僕の足首を掴んだまま言い争いをしているらしい彼に「頼むよ」と言ってみたが逆さ吊りの状態ではどうにもうまく声が出なくて間抜けだった。やだなぁだからこいつらといるのはちょっとだけ嫌になるんだよ。

「あっ」
と気付いたときには眼鏡は僕の額を滑って落下していった。頭に血が昇ってすでぼやけていた景色がさらに滲んで混ざりあう。厄日だ、あんまりだ。

「新羅ー、具合はどう?」
ゆっくりと引き上げられながら、僕はその問いに対する答えを考える。全く、これだけ被害を受けたってこんな気分にさせられる友情というものの価値をもっと君たちは理解した方がいい。

「面白いから、まぁ悪くはないね。」


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ぬるりとした感触の眠りから目をさましてはみたがどうにも瞼が開ききらない。
二つに折り畳んで枕代わりにしていた座布団には自分の涎が染み込んでいるのが見えて、そこでようやくしまったと俺は身体を起こしたのだった。
「シズちゃんも寝てるじゃないか。」
「うるせえ。大体お前が気持ちよさそうに寝てるから、」
「自分の睡眠のことまで俺のせいにしないでよねえ。あ、ビール飲む?」
「まだ昼間だろ。」
「もう夕方だよ。」
携帯電話を見てみれば本当にもう夕方と言っていい時間で、ああ折角の休日だったのにと俺はちょっとだけ残念に思う。しかしながらこうやってゆっくりするのも悪くないんじゃないかと思う辺り毒されているのかもしれない。
臨也はしばらくしばらく携帯電話をいじっていたが、俺が寝入るより前からずっとこたつでうとうとしていたから喉が渇いているのだろう、ようやく意を決したように立ち上がり冷蔵庫へと向かっていった。
寒い寒いと小さく文句を言いながら。500ミリリットルの缶を二つとそれと適当なつまみを持って臨也が戻ってくる。今のこいつの姿を見て、誰が悪役だとか黒幕だとかそんな大したものだと思うだろうか。
タバコの箱に手を伸ばした俺にライターを手渡しながら臨也が笑う。
「君さ、今『喧嘩なんかしたことない』みたいな顔してるよ。」


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目を覚ますと午前四時。日は昇っているものの外は薄暗がりで、静かな空気は漂うこともなくそこへじっとしていた。ホテルの窓から見ると、波もひどく穏やかで、まるでそこへ止まっているかのように見えた。背後から聞こえる寝息だけが時間を刻んでいるみたいだった。

『海へ行かないか。』
不意に彼がそんなことを言って、俺たちはここまでやってきた。それは昨日の夕方、沈みかけた太陽がオレンジ色の光を彼の顔に投げて影を作っていた。金髪と空のその色が混じって綺麗だと俺がぼんやり思っているうちに手を引かれ、気付けば電車に揺られていた。
オフィス街から郊外へと向かう電車は帰途の人々で混みあっていたが、何駅か過ぎるうちに段々と減っていって、いつの間にか車両内には俺と彼と、それから離れた席に座った幾人かの人たちだけになっていた。俺たちは並んで座って、二人とも黙って窓の外を眺めていた。突然の出来事だったから、俺が持っていたものといったら財布と充電の切れかけた携帯とそれとナイフぐらいのもので、心許ないような、それでいてどこかほっとしたような気分だった。こんなに凪いだような気持ちを味わうのはいつぶりだろう。それもこの男が隣にいる状態で。ちらりとそちらへ目を向けると、彼はひとつ欠伸をして、わずかに目を細めていた。彼が何を思っているのかはわからない。電車が終着駅に滑り込んで、ドアが開く。流れ込んできた潮の匂いが煙草の匂いをかき消したから、そのときはまるで彼が彼ではないように思えたのだった。

そのまま二人で黙って歩いて、そのうち日が落ちてしまったから目に付いた海沿いのホテルの一室に泊まることにした。俺がコートを脱いで、ベルトと靴を床に放り投げてベッドに転がると、彼はベストとベルトと靴とそして蝶ネクタイを投げ出して同じように身を横たえた。寝転がっても窓からは海が見えた。夜の海は黒く、どこまでも深かった。彼がぽつりと『疲れたな』と言ったのに、俺は『そうだね』と一言だけ答えて目を瞑った。呼吸が驚くほど楽だった。
ずっとこうしていられたらいいのに、と思った。すべてを簡単に捨ててしまえないほど、俺たちはものを持ちすぎてしまっている。
(自分と彼だけの世界があった頃に戻れたら。)
自らの心臓の音と彼の声だけが聞こえたあの頃。あの時の俺たちが何でも出来たのはきっと俺たちが何も持っていなかったからなのだろう。決してあの頃はしあわせではなかった。けれどそれが、一番俺たちにとって満足のいくものだったのかもしれない。

「今」のことをふと思い出して俺は苦しくなる。伸びてきた彼の手は、きっと明日には俺の髪を撫でずに首を絞めるのだろう。


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※臨波


さくさくさくと、小気味良い音を立てて手元の包丁がタマネギを刻んでいく。自分の手で、自分の意志でこの作業をしているはずなのに頭の上、斜め三十度ぐらいから眺め下ろしているような気分でそれを見つめていた。

料理をするのは嫌いではない。かと言って好きというわけでもないのだがレシピの通り、マニュアル通りに手順を辿っていけば思い通りのものが出来上がるのは割合面白いと思う。一つ一つの作業の中にはには技術が必要になってくるものもあるが、何度もやるにつれ着実に出来るようになっていくのもいい。自分で食べるために作るのも悪くないが、誰かに食べられているのだと実感する時の方が好きだ。目の前で感想を言って、「君の料理が無性に食べたくなるときがあるんだよね」なんて言われたりする。

(私の世界には誠二だけなのに。)

あの男は私の料理が好きだという。具材の切り方から味付け、それから盛りつけの仕方まで全部好きだと屈託なく笑ってみせるのだ。その笑顔がどことなく、いつも浮かべているような、底に何かしら押し込めているようなものとは違うような気がするものだから始末が悪い。
自分が持っているもののすべては弟のためにあると今まで思っていた。料理を覚えたのだって弟のためで、美味しいだなんて彼にだけ言われればいいと思っていた。
けれどいつからだろう。気付けば私は「美味しい」という言葉に貪欲になってしまっていた。

ここでの業務の一つの中に食事を作ることがある。彼は朝ご飯を食べないから、朝はコーヒーを、昼は身軽に動けるように簡単な食事を、夜は二人で一緒に食べれるようなものを。「あれが食べたい」と言うときもあれば何も言わないときもある。気まぐれなあの男に合わせて食事を作るのは案外楽しい。ここでこうしているかぎり、彼が初めて「悪くないね」ではなく「美味しい」と言ったときのことを私はきっと忘れられないのだろう。

タマネギが目にしみて上を向く。すっかりバラバラになったそれを元に戻すことはもう出来ないのだ。

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母の部屋には姿見があった。中学校へ上がるまで俺の身長がそれを越すことはなかったから相当に大きなものだったと思う。部屋の入り口の真正面にそれはあって、普段扉は開かれたままだからその前を通る度に自分の姿が映った。
ある時は笑顔で、ある時はぶすくれた顔で。そこに映る自分の顔を見て、「ああ泣いていたのか」なんて気付いたこともあった。
その鏡を母はいつだってぴかぴかに磨きあげて大事にしていて、それと同じように俺もそれを大切な存在だと感じていた。

しかしいつからだったろう。俺がその鏡を見ることをやめてしまったのは。確かにわかるのは金髪になった自分の格好はあの姿見では見ていないということだ。ということは高校へ上がる少し前からだろうか。いや、それよりきっともっと前に、俺は鏡を見ることが嫌になっていたんだ。自分の姿なんて見たくない。いなくなりたいと思っていたかもしれない。人並みはずれた力を持つ身体を見たくないと思い始めたのがいつかもわからない。
その頃、俺が一番見たくなかったのは自分の目だった。前髪の内側で、金を反射する目。その奥の淀みきった部分はきっと表面に浮かぶ激しいほどの感情のせいで他人には見えないだろうが、俺にははっきりと見えたから。俺は自分が嫌いだった。

だから、「化け物」と呼ばれたときはっとしたのだ。
お前は人間じゃないんだから。そう言って笑った男の姿は今も網膜に焼き付いて離れない。
「君と、周りの人間とじゃあ違いがあって当然じゃないか。」
さも当たり前、というようにあいつは俺を見た。何を馬鹿なことを言っているんだとでも言いたげな笑顔を浮かべて、俺だけを見つめていた。
「君はどうやったって君から逃れられないんだからさ。いい加減諦めなよ、シズちゃん!」

あいつにとっちゃその言葉はナイフと同じだったんだろう。傷つけるために心臓に突き立てられたその一言で、まさか俺が救われたとは思いもするまい。

(ああ、そうだった。俺は俺なんだ。)

頬には擦り傷、服はボロボロでところどころに破れが見られ、シャツの左胸部分は鋭利なナイフで綺麗に切られてしまっている。擦りむいた手のひらで扉を開けて俺が再びその姿見の前に立ったとき、そこにあったのはそんな自分の姿だった。

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