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顔【東巻東】
言い方は悪いかもしれないが、オレはこの男の顔が好きなんだと思う。
「それでな、巻ちゃん」
聞いてくれ。そう言ってこちらに向けられたその顔が好きだ。「巻ちゃん」の「ま」を発音する時に真ん丸になった口が「き」と口にするときにはにやりと笑ったようになり、「ちゃん」と言い切った時には満足げに閉じられている。まきちゃん、だなんて女みたいな呼ばれ方をしているのにオレが一向にそれをこいつにやめさせられそうにないのは、それを口にする時の表情のどれもこれも二度と見られなくなったらきっと後悔するだろうと思うようなものばかりだからだ。
オレの名前を呼ぶときには大抵東堂はこちらをじっと見ていて、そのはっきりと開かれた目はオレを映している。東堂の目の色は浅い色をしている。怒ったり、興奮したりするとその目の色は濃くなって少し濁ったような色になる。それも好きだ。いつもの澄んだ、何もかもを見通しているようなその目の色も、色んな感情をごった混ぜにしたような強い色もどれもこの男にはよく似合っている。
「聞いているのか」と彼がちょっとだけ眉を寄せるのが見えた。あ、その顔もいいな、とオレは東堂の言葉をどこかよそに聞いている。柳眉って言葉をどこかで聞いたことがあるがもしかするとこういうのを言うのかもしれない。それが男にも使っていい言葉なのかどうかは知らない。だからと言ってオレがこいつのことを女っぽいだとかそういう風に思っているわけでもないから、単にその言葉が東堂という男によく似合うだけのことなのだ。
よくよく見てみれば、東堂はひどく整った顔をしていた。目元はすっきりしているが、それでいてぱっちり開かれた冴えた目をしている。鼻筋は通っていて、唇はオレより厚いがどちらかと言えば他人よりは薄い。頬には無駄な肉がない。だがしかしそこには削ぎ落とされたような雰囲気はなくて、彼の全身と同じようにただ必要なだけの筋肉が付いているのが見えた。頭の形は丸い。広い額はそのカーブに合わせて丸みを帯びた形を作っていて、ふとオレはそれを見ながら、なんだか抱えた時に収まりのよさそうな頭だな、なんてことを思っていた。

「巻ちゃん」
そう呼ばれてぱっと意識をそちらに戻すと、不意にこちらに手が伸ばされるのが見えた。何か言う間もなくオレはその手に捕まって、ぐいと頭ごと引き寄せられる。
「オレといるのにぼーっとするなよ」
東堂は苦笑するように目元を緩めながらそう言った。その目をじっと見つめながら、ふとオレは何だこいつ自分に嫉妬してんのか、なんてことを考えて一人何だか可笑しくなってしまう。耐え切れずに笑うと東堂は困ったように一瞬目を泳がせて、それからちょっと目を伏せて照れくさそうに自分も笑った。オレが顔をそちらに寄せて額同士をくっつけると、伏せられた睫毛の長さが見えた。
東堂がちらりと上に視線を向けてオレを見る。すぐに逸らされる寸前の、はにかんだようないつもよりも柔らかい笑みがあんまりにも好みでそれがもう一度見たくて鼻同士がくっつくほどに顔を寄せてみたが、その距離に耐えられなかったのか、東堂はすぐにこちらに唇を寄せてきた。思わずオレが目を瞑ると、東堂が喉の奥で笑ったような気配がした。すぐにオレが目を開くと、ついさっきの笑みを浮かべた東堂がいる。ああ悔しいけどやっぱり好きだ。乱すみたいに目の前の男の真っ直ぐな髪を掴みながらくぐもったうめき声をあげる。
「巻ちゃんのその顔、好きだぞ」
そう言った男の目は濁った色をしている。その目に映った自分の顔も大概に溶けたもので、お互い様だとオレは密かに笑った。


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