忍者ブログ

   
カテゴリー「drrr」の記事一覧
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。



目を覚ましたときにはもうすでに太陽は昇りきっていた。正午少し前を指す時計の針を薄目で見つつ、寝転がったまま少し身体を伸ばす。布団も敷かずに眠ったものだからひどく背骨が痛い。首の関節がごきりと嫌な音を立てるのを聞かなかったことにして、俺はもう一度身体を丸めた。俺の隣の金髪は身じろぎさえせず、死んだように眠っている。本当に死んでるんじゃないかと少し心配になって(昨日あれだけの量を飲ませたのは俺だけれども)腹ばいに近付いてみると、残念なことにまだ生きていたらしく穏やかで酒臭い呼吸を繰り返していた。まだ目覚める気配は無い。つまらないなと心の中で呟いた俺の声は外の喧噪に消えた。三連休最後の祝日はどうやらレジャー日和のようだ。
昨日の夜、仕事が終わるのを見計らって迎えに行くと、約束していた訳でも無いのにシズちゃんは待っていたかのように俺を連れて歩き始めた。雨の匂いのする暑い夜だ。人々が皆、週末の楽しみを控えて家路へと急ぐ中俺たちだけがゆっくりと足を進めていた。のろのろとした足取りで隣にいる奴の存在を確かめながら歩く。シズちゃんの手が時々俺の手に触れて、俺の視線がシズちゃんのそれと出会ったりして。鈍くて、まるで明けきらない梅雨の、この空気みたいな交わり。声も立てずに笑うと、隣の肩が震えた。頭がゆっくりと腐敗していく。「好きだ」というこの一言は怠惰の感情とよく似ていると最近思うのだ。無くてはならないものじゃないし、ましてや捨ててもいいようなものなのにいつの間にか手放せなくなっていて、気付けば
依存している。夏のせいかもしれない。脳味噌が茹だって、その時俺は彼のことしか考えられなくなっていた。
道すがらコンビニに寄ってしこたま酒とつまみを買い込んで(俺が際限無くカゴに物を増やすもんだから彼はずっと渋い顔をしていた)彼の家に向かった。シズちゃんの部屋はやっぱり暑くて、入った瞬間に蒸れた空気に襲われた。「暑い」と彼に文句を言っても帰れとは言われなかった。ただシズちゃんも「暑いな」と言って俺の方を見ただけだった。喉がひどく渇いていた。玄関に靴を脱ぎ捨てて、畳にシズちゃんが俺の上にのし掛かる形で倒れ込む。わぁとふざけた悲鳴を上げるとにやりと俺の上にいる男は笑った。そのままの体制でしばらくの間じゃれあって、それから買ってきた酒を水の代わりに飲んだ。渇いた喉を潤すためにたまにキスをしたりもした。窓を開けても温い空気の
せいか動作のどれもこれもがゆっくりに思えた。シズちゃんがもう一度俺の上にやってきたときも、いつもの彼じゃないみたいに優しくて緩慢だった。夏のせいかもしれない。もしかすると雨の匂いがしたからかもしれない。ひどく穏やかで鈍い夜だった。

頭痛がしたので俺はもう一度目をつむった。朝日は酒の回った頭にはまだ早すぎる。畳の上で寝るとまた身体を痛めるぞと自分に言ってみたがもう動く気にもならない。薄く目を開くと、彼も目を開いているのが見えた。
「あと十五分。」
寝ぼけたように彼がそう言ったので、俺もまた眠ることにした。

拍手[0回]

PR
子供だった頃、特撮ものが好きだった。画面の中を縦横無尽に駆け回り、悪い奴らをやっつけるヒーローが大好きだった。彼らはいつだって正義の味方で、必ず悪役を打ち倒す。おどろおどろしい見た目のヒール達はその人並み外れた力(といっても彼らが人間であることは少ない)をもって正義の味方達を一度は追いつめるのだが、そういった番組にお決まりのパターンで、結局は負けてしまう。変身なんか待たずにヒーローに攻撃しないのは彼らの正義なのだろうか、なんてよく幼心に思ったものだ。悪には悪のヒーローがいるって誰かが言っていた気がする。
俺はヒーローが好きだった。それがこの世界において良いものであっても悪いものであっても、自分自身の中で筋を貫き通すその姿が好きだったのだ。
それは随分と昔のことだけど、時々俺はそんな子供時代のワンシーンを思い出す。テレビの真ん前に座って画面を見つめては思っていた。俺もこんな風になりたいと、大人になったらきっとこんな風になれるのだと思っていた。

俺が「悪役」に転じてもう何年になるだろうか。昔はそう言えば躍起になって「正義の味方」を目指していたこともあるのだけれども、多くの人間が目指す方向がそちらだということに気付いた途端すっかりそれは止めてしまったから、もう随分長いはずだ。(大方の場合物事はは離れた方が観察しやすい。)それが顕著に他人に認識されるようになったのは不本意ながらあの化け物のせいなのだけれども、今となってはそれは俺にとって良いことだったのではないかと考えたりもする。
口に出すのも不愉快だが、あいつは生まれながらの「ヒーロー」だった。驚異的な力を持ち、子供の頃から周りの人間から畏怖され、彼ら独特の孤独を持つ。
そんな男に俺は真っ向から対峙した。そう、唯一の存在である対極の位置に俺は立ったのだ。

俺の夢が叶ったかどうかなんて今や俺に尋ねる人間はいない。だってそれは誰の目にも明らかなことだからだ。

今日も今日とて俺はあいつと戦う。あの男を殺したいだとか、単に邪魔だからだとか、いろいろ理由はあるが一番の理由は俺が「ヒーロー」だからということに他ならない。

「正義の味方ってのも楽じゃないよねえ。」

そう言って笑う俺の表情はきっと、画面の向こうの彼らの姿とそっくりだ。

拍手[0回]

※新羅と臨也


臨也の手が案外きれいなものではないことを知る人はどれほどいるだろうか。比喩的な意味も、具体的な意味も含めだ。
「君って努力を他人に見せないタイプの人間だと思ってたよ。」
「ふうん、新羅って俺をそんな風に見てたんだ。照れるね。だけど、それは俺を買いかぶりすぎだよ。俺はそもそも努力なんてしないし、この作業だって必要なことをやっているまでさ。」
臨也は目を本に落としたまま僕にそう言った。そのページにはびっしりと知らない文字が並んでいて、私にはそれが暗号のように見えた。意味を成さない羅列を目の前の男を真似して追ってみるが、段々蓄積していくその文字が嵩を増していくのに耐えられなくなって私は席を立った。
腹を刺されたとどこか嬉しそうな顔をして一昨日の夜現れたこの男は、まだ犯人が捕まっていないなんてもっともな理由をつけて僕と彼女の愛の巣に居座っている。確かにその傷は浅いものでは無かったが、わざわざここに入院するほどのものじゃない。保護してもらうならその筋の人のところへ行けばいいのにと俺が口にしたのが昨日。そしてこの男の依頼で愛する彼女が二つ向こうの県まで走っていったのが今朝。天賦の才って誰にでもあるもんだねと皮肉って言ってやろうかと思ったが、そんなことをすれば次の依頼で彼女は海を越える羽目になりそうだから私は口を噤んだ。
彼女もいないし、(臨也が手を回したのか)今日くるはずだった患者も来ない。外にでるような趣味も無い俺はすっかり手持ち無沙汰になって、仕方なく唯一の入院患者の相手をすることにしたのだった。
臨也の手は案外きれいではない。指先にはひどく年季の入ったペンだこがある。手のひらにはナイフを握る人間特有の跡がある。努力なんてしないなんてこれで言うのだから笑いぐさだ。
(素直に自分がふつうの人間だって認めればいいのに。)

「ねえ、君ってさあ、」
マグカップを持って俺がベッドの側へ戻っても彼は文字列から目線をはずそうとはしなかった。俺は黙り込む。この続きはきっと彼自身わかっているだろうから言わない方がいいだろう。

(ばけものになりたいんだろう。)

拍手[0回]


※デリ臨


そんなにたくさん作っても二人しかいないんだから、と俺が小さく眉を寄せても同居人は上機嫌で「配る人ならいっぱいいるよ」と言っただけで聞こうともしなかった。
甘酸っぱいにおいが部屋中に満ちていく。すん、と鼻を鳴らすと目敏くキッチンにいるデリックからいい匂いでしょと嬉しそうな声が飛んでくる。まるで自らの功績みたいにオレンジの香りまで自分のものにしてしまう彼は少しずるい。そんなことを言われてしまっては、きっと俺はオレンジを見る度君のことを思い出してしまうだろう。
彼がオレンジを腕一杯に抱えて帰ってきたのはちょうど今から2時間ほど前のことだった。どうしたんだと尋ねると「道で助けたおばあさんにもらった」と言う。嘘か本当かは俺にはわからないが(調べようとも思わない)、言いぐさが彼らしい。
帰ってきてすぐにデリックは作業を始めた。カゴにこれでもかと並べられたオレンジを一つ一つ丁寧に洗って皮ごと細かく切っていく。図体の大きい割に繊細な指先がみるみるうちにカゴの中身を減らしていく。爪の間にいつの間にか挟まった皮の残骸や果汁が彼の指先をオレンジ色に染めていた。彼のいれてくれたコーヒーを飲みながら俺はそれをしばらく眺めていたが、ふと今彼を舐めたら甘いんだろうか酸っぱいんだろうかなんて疑問が頭をよぎって慌てて仕事に戻ることにしたのだった。
オレンジをすべて切り終えて、それからずっとデリックは鍋とにらめっこしている。しかし彼は真面目ではないから俺がたまに顔を上げると必ずこちらを見ているのだ。本当は鍋なんか投げ出してあなたと話したいんだけど。そんな目をして彼はじいっとこちらを見るのだ。
それが俺にはおかしくて堪らない。だってそうだろう。別に鍋なんか放り出したって怒りはしないのに。いくら君に触れられたって俺は足りないのに。声を殺して笑うと、向こうで彼が身じろぐ気配がした。それでも見た目に似合わず案外真面目なあの男はこちらへ駆け寄ってはこないだろう。
だから今はこの匂いだけで我慢しておこう。甘くて酸っぱい、マーマレードの匂いは俺に君の指の感触を思い出させるのだ。

拍手[0回]



電話を切ってすぐ俺は駆けだした。風呂上がりの濡れたかみのまま、靴下を履きもせずに目に付いた靴を引っかけて。Tシャツだってもう何年も寝間着として使っているよれよれのものなのも忘れて俺は家から飛び出していた。
夜の何時過ぎだったかは覚えていない。もうすぐ明日になるねと電話越しにあいつがいったことだけは覚えている。真っ暗な道を俺は行く。息を弾ませて、周りの目なんか気にする必要もなかった。
こんなことになったのは何もかもあいつが悪い。俺はさっきの電話内容を思い出す。家に帰ってきて、飯食って、風呂に入って、それからぼんやりテレビなんか見ながら扇風機に当たっているときにあいつが電話を掛けてきた。それ自体は珍しいことじゃない。あいつは俺の都合のいい時間を見越して時折、繁にじゃないがこうして電話を掛けてくるようになった。俺とあいつがこういう関係になってからのことだ。恋人、なんて呼ぶとあいつは少し困ったような顔をするのだが、時々こうして電話をして、お互いの声を聞いて、それから顔が見たくなって、直接手に触れたくなったりして、次会ったときにはどんな話をしようかなんて考える関係を俺は恋人以外に知らないからそう呼ぶことにしている。口に出したことなんて無いが、俺はきっとあいつのことが好きで、あいつも俺のことが好きなんだと思う。俺たちは高校時代からずうっとお互いばかり見つめすぎていて、あんまりにもこういった関係性に慣れていない。
だからだろうか。さっき臨也の、あんな声が聞こえたのは。
息苦しい。それでも脚は止まらない。俺の家の最寄り駅から新宿までは何分だっけ。電車に乗るのももどかしい。あいつはドアを開けて待っているだろう。何とも言えないような、自分自身でも何と言っていいかわからないみたいな顔をして。俺たちは長い時間を共にしてきたのに、それでもまだお互いに言っていない、言えていない言葉がある。
濡れた髪がシャツを濡らしている。もしかすると汗で濡れているのかもしれない。家の電気を消し忘れたことだとか今の格好だとか心配ごとはいろいろあったけど、すべては心臓の音が消してしまった。俺の頭の中に残ったのはただ一言。あいつの言葉だけ。

「今、君に会いたい。」

拍手[0回]

  
プロフィール
HN:
長谷川ヴィシャス
性別:
非公開
最新記事
P R
Copyright ©  -- 15min --  All Rights Reserved

Design by CriCri / powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]