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マーマレード
※デリ臨
そんなにたくさん作っても二人しかいないんだから、と俺が小さく眉を寄せても同居人は上機嫌で「配る人ならいっぱいいるよ」と言っただけで聞こうともしなかった。
甘酸っぱいにおいが部屋中に満ちていく。すん、と鼻を鳴らすと目敏くキッチンにいるデリックからいい匂いでしょと嬉しそうな声が飛んでくる。まるで自らの功績みたいにオレンジの香りまで自分のものにしてしまう彼は少しずるい。そんなことを言われてしまっては、きっと俺はオレンジを見る度君のことを思い出してしまうだろう。
彼がオレンジを腕一杯に抱えて帰ってきたのはちょうど今から2時間ほど前のことだった。どうしたんだと尋ねると「道で助けたおばあさんにもらった」と言う。嘘か本当かは俺にはわからないが(調べようとも思わない)、言いぐさが彼らしい。
帰ってきてすぐにデリックは作業を始めた。カゴにこれでもかと並べられたオレンジを一つ一つ丁寧に洗って皮ごと細かく切っていく。図体の大きい割に繊細な指先がみるみるうちにカゴの中身を減らしていく。爪の間にいつの間にか挟まった皮の残骸や果汁が彼の指先をオレンジ色に染めていた。彼のいれてくれたコーヒーを飲みながら俺はそれをしばらく眺めていたが、ふと今彼を舐めたら甘いんだろうか酸っぱいんだろうかなんて疑問が頭をよぎって慌てて仕事に戻ることにしたのだった。
オレンジをすべて切り終えて、それからずっとデリックは鍋とにらめっこしている。しかし彼は真面目ではないから俺がたまに顔を上げると必ずこちらを見ているのだ。本当は鍋なんか投げ出してあなたと話したいんだけど。そんな目をして彼はじいっとこちらを見るのだ。
それが俺にはおかしくて堪らない。だってそうだろう。別に鍋なんか放り出したって怒りはしないのに。いくら君に触れられたって俺は足りないのに。声を殺して笑うと、向こうで彼が身じろぐ気配がした。それでも見た目に似合わず案外真面目なあの男はこちらへ駆け寄ってはこないだろう。
だから今はこの匂いだけで我慢しておこう。甘くて酸っぱい、マーマレードの匂いは俺に君の指の感触を思い出させるのだ。
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