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みじんぎり

※臨波


さくさくさくと、小気味良い音を立てて手元の包丁がタマネギを刻んでいく。自分の手で、自分の意志でこの作業をしているはずなのに頭の上、斜め三十度ぐらいから眺め下ろしているような気分でそれを見つめていた。

料理をするのは嫌いではない。かと言って好きというわけでもないのだがレシピの通り、マニュアル通りに手順を辿っていけば思い通りのものが出来上がるのは割合面白いと思う。一つ一つの作業の中にはには技術が必要になってくるものもあるが、何度もやるにつれ着実に出来るようになっていくのもいい。自分で食べるために作るのも悪くないが、誰かに食べられているのだと実感する時の方が好きだ。目の前で感想を言って、「君の料理が無性に食べたくなるときがあるんだよね」なんて言われたりする。

(私の世界には誠二だけなのに。)

あの男は私の料理が好きだという。具材の切り方から味付け、それから盛りつけの仕方まで全部好きだと屈託なく笑ってみせるのだ。その笑顔がどことなく、いつも浮かべているような、底に何かしら押し込めているようなものとは違うような気がするものだから始末が悪い。
自分が持っているもののすべては弟のためにあると今まで思っていた。料理を覚えたのだって弟のためで、美味しいだなんて彼にだけ言われればいいと思っていた。
けれどいつからだろう。気付けば私は「美味しい」という言葉に貪欲になってしまっていた。

ここでの業務の一つの中に食事を作ることがある。彼は朝ご飯を食べないから、朝はコーヒーを、昼は身軽に動けるように簡単な食事を、夜は二人で一緒に食べれるようなものを。「あれが食べたい」と言うときもあれば何も言わないときもある。気まぐれなあの男に合わせて食事を作るのは案外楽しい。ここでこうしているかぎり、彼が初めて「悪くないね」ではなく「美味しい」と言ったときのことを私はきっと忘れられないのだろう。

タマネギが目にしみて上を向く。すっかりバラバラになったそれを元に戻すことはもう出来ないのだ。

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