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あんまり器用な方ではないから。そう福富が言ったのに思わず荒北は吹き出した。
「それにしたってお前ヨォ、」
「中学の時は学ランだったんだ」
「理由になんねえよそんなもん」
本当に自転車以外のことはからっきしなんだな、と荒北は非常に愉快そうに笑っている。隣にいる福富は相も変わらず鉄仮面のままだが、しかしどこかしらむっとしたような様子である。
練習が終わった直後の倦怠を吹き飛ばすかのような笑い声。荒北のこんな声を聞くのは初めてだったからどこか新鮮な思いを抱く一方福富がそれに対して全面的に良い感情を持てないのは、荒北が自分の手元を見てその声を上げているからだった。

「おめー今までどうやって登校してきたんだよ」
荒北はまだ口の端に笑いを残したままである。普段、あの特徴的な髪型にセットされている黒髪は今は下ろされて、長い前髪が彼の目を半ば隠していた。ちらちらとしか覗かないせいで一層その目が気になってしまって、福富はどうにも落ち着かない気持ちになるがナァ、という荒北の呼び掛けではっとして、ようやく口を開いた。
「・・・新開が」
「新開ィ?」
「スプリンターだ。あの赤毛の、」
「知ってらァ、んなこと。なァにお前、毎朝そいつにネクタイ結んでもらってんのォ?」
「いや、特に咎められなければ結んでいない」
「よくそれでギャーギャー言われねえな」
「お前とは素行が違うからな」
「ケッ、言うじゃねえの」
ひどく口が悪い。しかしながら顔は笑っているからそう悪く聞こえない。面白がられているらしいと福富は思って、また少しだけ眉を顰めた。手元で絡まってしまったネクタイを解きながら福富は次にどう言えばこの男に笑われないかと考えてみたが、ちらりと横目に見た荒北のにんまりとした、少し人の悪そうな笑顔が嫌いではないだなんてことを思ってしまったから、何も言えなくなってしまった。
荒北の頬にはかすり傷が見える。今日も転んだのだと、不愉快そうに、しかしどこか満足げに言っていたことを思い出す。

「おい、鉄仮面」
しばらくして荒北がそう呼びかける。福富が顔を上げるその前に、彼の骨張った長い指がひょいと手の中にあったネクタイを取り上げていった。
「俺が結んでやるよ」
「お前が?」
「ああ。お前が自分で結べるようになるまでなァ」
その代わり、と荒北は続ける。
「俺がお前より速くなるまで、首洗って待っとけよ」

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