忍者ブログ

   
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

「腹減った」
「腹が減った」と隣にいる男が言ったので福富は立ち上がるが、準備をし始めた彼を引き留めたのは原因である荒北本人だった。
「どうした、腹が減ったんじゃないのか」
「それは言った、けどさァ」
首を傾げた福富に、荒北はひどく言いにくそうな調子で「そうじゃなくて」と言ってそれからすぐに目を逸らした。何か言うのをためらっては彼は口を閉ざし、ちらりと福富の方を見ては視線をまたよそにやる。彼が言いたいことがよくわからない福富は立ったままそちらを見つめるばかりである。どうしようかと彼は手に上着を持ったままじっと荒北のつむじの辺りばかり眺めていた。
「外に出るのが面倒なら食堂ででも」
「そうじゃなくて、オレが言いたいのは、」
「なんだ」
「何だ、ってお前よォ」
とにかくもう一度座れ、と荒北が言うと福富はおとなしくその言葉に従ったが、しかしやはりまだ納得していないような顔であった。

ベッドに腰掛ける。福富が腰を下ろした拍子に荒北の体がわずかに揺れた。それと同時に、荒北が買い物に行って帰ってきてからずっと枕の横に放置されたままになっているビニール袋もがさりと音を立てる。腹が減っていたならさっきコンビニに行った時に何か買ってくればよかったんじゃないか、と福富はふと思ったがそれを口にはしなかった。相手が悩んでいるような、困っているような表情をしている時にこんなことを言えばきっと荒北はへそを曲げてしまうだろうと思ったからだ。せっかく今日は休日で、それに二人きりなのだ。機嫌の悪い時の荒北のことだって福富は嫌いではないが、こんなに天気のいい日には機嫌のいい彼と過ごしたいと思う。
そんなことを考えながら福富は黙ってじっと荒北の次の言葉を待っている。荒北はなんだか小難しいような顔をして、膝に肘をついて何か考え込んでいる。少し離れて座っていたのを福富がいったん腰を上げて距離を詰めると、その瞬間に荒北ははっと弾かれたように顔を上げた。目が合う。ちょうど外からの明るい日差しが荒北の左頬の辺りに掛かって、片目だけがきらきらと輝いているように福富には見えた。
何とはなしに上体だけを傾けて荒北の方に顔を寄せてみると、荒北はそれを避けるように身体をのけぞらせる。
「荒北?」
福富が軽く首を傾げると、荒北は目を泳がせて彼から視線を逸らした。目は天井を見て、福富の背後を見る。それからドアの方に向かうと、最後にベッドの上に転がっているビニール袋を見た後また福富の方に視線を戻した。ずっりィ、と荒北が途方に暮れたような声で言う。
「福ちゃんそれ無意識にやってるわけェ」
「何がだ」
「そういうとこだって」
「…言っている意味がよくわからないんだが」
「かっわいいなァ、ホント」
まるで観念したような言い方で荒北はそう言って、身体を傾けて福富の頬に唇を落とす。がさり、と音がしたのに福富がそちらに視線をやれば、ちょうど荒北の片手がビニール袋を掴んでいるのが見えた。
「オレさァ、腹ペコなんだよ」
荒北がニヤリと笑う。そうしてその後、袋から取り出された小さい箱を見て、福富が赤面したのは言うまでもないだろう。


拍手[2回]

PR
  
COMMENT
NAME
TITLE
MAIL (非公開)
URL
EMOJI
Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
COMMENT
PASS (コメント編集に必須です)
SECRET
管理人のみ閲覧できます
 
プロフィール
HN:
長谷川ヴィシャス
性別:
非公開
最新記事
P R
Copyright ©  -- 15min --  All Rights Reserved

Design by CriCri / powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]