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断食
「静雄、お前顔色悪くないか。」
俺がそう尋ねると、男は少し首を傾けて大丈夫だと言った。その返答では自らの状況が悪いことを示すだけだと思ったが、口には出さなかった。そうされることをこいつは望んでいないだろうし、俺もそこまで追求してやるつもりはさらさらなかったからだ。
ワゴンカーに寄りかかって立っている俺の隣で静雄はしゃがみ込んでいる。動くのも億劫らしく、指で挟んだ煙草のフィルターがじわじわと短くなっているのにももはや関心はないようだった。いつもは俺よりも高い位置にある金髪が、今は俺の膝あたりでうなだれている。「昨日から何も食べていない」と呟いた時の彼の目がひどく疲れていて、こいつも苦労してるんだなと俺は同窓生の日常を想ったのだった。毎日毎日働いて、かと思えば毎日のように走り回って喧嘩をしている。彼の日常の中で食事がどれだけ大事な役割を担っていて、またそれを抜くことがどれだけの苦痛になるか想像しなくてもわかった。深く息を吐いた静雄の横顔に影が落ちる。この様子だと昨日からと言わず、ずっとろくに物を食べていなかったのではないだろうか。
隣から腹の虫が鳴く声が聞こえて、ちらりと目線をやると静雄は頭を抱えていた。給料日前にはいつもこうなのかと聞けば、いつもはこうじゃないと彼は力無く頭を振った。
「今月は買いてえ物があったから。」
「飯我慢してまで?」
「ああ、給料三ヶ月分削ってまで欲しかった物があって。」
言わんとすることがわかってしまった俺は言葉を失って、静雄を見つめる。少し痩せただろうか。もしかすると俺がこいつに持っていたイメージのせいかもしれない。何よりも強くて、まるで百獣の王みたいに大きくて、人間離れしている。俺はずっとこいつにそんなイメージを持っていた。それが急にこんなにも人間くさい表情をして笑うのだ。驚かないわけがない。
不意に頭に一人の男が浮かんだ。静雄の天敵で、それでいて彼にとって無くてはならない唯一の存在ともいえる男だ。静雄の目をのぞき込むと奥にはっきりとした意志が見えた。どうやら本気らしいことを悟り、俺は驚くことすらなくただ納得したのだった。
「飯おごってやろうか」と俺が言っても、静雄は首を縦には振らない。
「今晩臨也のとこに行くんだ。」
彼のズボンのポケットが膨らんでいることに気付いて、どうしてだか俺も笑った。
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