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キログラム
「おかえり。」
「ただいま。ああ、もう、散々だ。」
頭の先から革靴の中までびしょびしょに濡れた同居人は、そう言って不機嫌そうにゆるく首を振った。髪の先から垂れる水滴を、こいつがきっと濡れて帰ってくるだろうと予想して用意して置いたタオルで拭き取ってやると、文句は「雑だ」という一言だけで臨也はそのままじっと俺のなすがままにされていた。タオルの中だと痩せた身体が余計小さく見える。頭をあらかた拭き終わってから臨也の肩にタオルを引っかけてそれごと抱き込むと、じんわりと体温が伝わってくるのがわかった。
「濡れるよ。」
「ちょっと痩せたかお前。」
「一週間やそこらで変わらないだろ。いい加減着替えたいから離してよ。」
「もうちょっと。」
「仕方ないなぁ、君ってやつは。」
馬鹿だなと言いながらも俺の背に回された臨也の手は優しい。こいつがいなきゃいけないなんて考えることなんてなかったのに、いつからか無意識下にそれが焼き付いてしまって離れない。こいつと同居し始めて数ヶ月、気付かないうちに変わってしまった部分はいくつあるだろう。
苦情の声も聞かないで臨也の身体をそのまま持ち上げて風呂場へ向かう。
「やっぱり痩せたって。」
「君、俺の体重まで把握してるの。」
「当たり前だろ。お前は俺のだ。」
「君のそういうとこが嫌いだよ。」
「俺は好きだけどな。」
「うるさい。というか、変わってたところでせいぜい一キロぐらいのものじゃないか。気にするほどじゃない。」
「お前は俺のもんだって言っただろ。一キロだって減らしたくねえんだよ。」
「横暴だね。」
「褒め言葉だ。」
臨也は喉を鳴らして小さく笑う。臨也の濡れた指が俺の頬に触れてゆっくりと撫でていったと思ったら、次の瞬間にはそこに唇があてがわれていた。柔らかい感覚に息を止めた俺を見て、頬を赤くしたのは臨也の方だ。
「君がそんなに俺のことを好きだなんて知らなかったよ。」
それはひどく満足そうな声だった。
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