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癖 【鬼/灯の/冷/徹】
※鬼灯 白鬼白
「ねえ、それって癖なの。」
僕がそう尋ねると目の前の男は露骨に不機嫌な顔をした。いやもしかするとここへ来てずっとそんな表情だったかもしれない。まぁさしたることでもないから覚えてなんていないんだけれども。こいつは僕のことが嫌いで俺はこいつのことが嫌いだっていうのは何千年も常識だったし、今更「実は好きでした」って言ったって信じてもらえないのも当然と言えば当然なのだろう。
僕は机の上に、鬼灯は側の椅子に腰掛けていた。生薬の作り方でわからないことがあると言ったこいつに、それなら実際に見た方が早いだろうとわざわざ呼び寄せたのが随分前。僕がとある言葉を放ったのがついさっき。それ以降ずっと二人ともこの体制から動いていない。
長い間じっと6つの目で見つめているというのに鬼灯はこちらに一瞥もくれず、ただひたすら指の爪を噛んでいる。右手の人差し指はもう見ていられないほどにガタガタだ。「お前の後ろの棚に爪ヤスリがあるのに」と言おうかと思ったが、それでこいつが止めるはずもないと気付いて口を閉じた。その代わりに僕はずっと男を眺めていた。ガタガタになった爪先をどうにか綺麗に整えようと噛み続ける姿は何かに似ている。
「あのさぁ鬼灯、お前嘘だと思ってるだろ。でも嘘じゃないんだよ。嘘だったらよかったなんて僕が一番思ってるし僕自身信じたくなんて無いんだけど、」
ガリッという硬質な音がして、男が一層眉を寄せる。僕は一度言葉を切った。鬼灯の人差し指から一筋の血が流れる。こいつにも血が流れているんだと少し驚いた。思わず机から飛び降りてその手を掴む。鬼灯がここへ来て、怒り以外の表情をしたのは久しぶりのことだった。
「鬼灯、僕はおまえのことが。」
「黙れ嘘つき。」
「嘘じゃないって、だからさ、僕は。」
僕を信じないのもお前の癖か。それとも信じていないと思うのが僕の癖なのか。
(どうしたらいいかわからない。)
きっと今僕はとても情けない顔をしている。女ったらしの名は余るほど他人からもらっているはずなのにこいつの前だと手癖の悪さだって直ってしまう。取り繕うとして慌ててまたボロが出る。これはまるで爪を噛むこいつと同じじゃないか。
男の口の端にも赤が移っていた。鬼灯の赤。僕はずっとこいつの血は青いもんだと思っていたのだ。
疲れたように息を吐く鬼灯の唇の端を舐めると、やはり鉄錆臭い味がした。
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