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ロックンロール 【A/PH】
※A/PH 朝菊
部屋の片隅にギターがあることに気付いて、私がそれをぼんやりと見つめていると、ドアを開けて入ってきた彼は少し照れくさそうな顔をして「あんまり得意ってわけじゃないんだけどな」とはにかんでいた。そのレスポールは随分と年季が入っている割にボディはピカピカで、弦の一本でさえもさび付いておらずよく手入れされているのがわかった。よくオイルの塗り込まれたネックはところどころすり減っていて彼の指の跡が見えるかのようだ。もうすっかり屋号も消えたヘッドの裏側に荒っぽく削り込まれた彼の名前を見つけて一人微笑む。
「弾いてくれないんですか」と私が言うと、彼はよせと口で言いながらも手に持ったティーポットとカップをテーブルに静かに置いて、楽器の方へと近付く。(彼のこういうところが私は嫌いではない。)
私は自分の座っていた椅子を彼に譲り、ソファの方へと移動した。彼は側の棚から慣れた手つきでピックを取り出すと確かめるようにそれを何度か握り直してから、楽器を持って椅子に腰掛けた。
軽くストロークする。コードはCだった。
次に軽く調子をつけてアルペジオ。音の端々が心地良い。
(ここで上手いなんてうっかり口にしてしまうと彼は照れて続きを弾いてくれなくなるだろうから私はじっと黙り込んでいた。)
コードをいくつかたどり、そうしているうちに徐々に音が張りつめていく。彼の指先が弦の上を滑るように聞いたことのあるフレーズを紡ぐ。
「これ、」
「好きだって言ってたろ。」
顔を上げた私にいたずらっぽく彼は笑いかける。エメラルドが柔らかい光を放つのにはっとした。
彼の国の音楽は荒っぽく、そしてある種退廃的だ。普段は紳士的なこの人が時折見せる表情とそれは非常に似通っている。そんな時の彼の声は低く掠れていて、私をぞくりとさせる。まるで歌声に熱狂する人々と同じように私もただの一人の人間みたいに彼の声に酔ってしまうのだ。
メロディに合わせて、彼が囁くように歌う。低く掠れた声で歌われるのは彼の国が誇るロックバンドの代表的なヒット曲だった。皮肉っぽいその歌詞の中にふと甘い響きを見つけて、今度は私が目を伏せる番だった。
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