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人間失格

自分には恥じることなどないと思って生きてきた。
今までに後悔したことが無いと言えば嘘になる。しかしそれでも自分がその出来事によって何かを学んだのだと思えば糧になった。自分の強さはそうして絶対的なものになっていくのだと、揺るぐことのないものとなるのだと思っていたのだ。レースで勝つことも、またどんなシーンでも負けないことによって自分自身の強さは証明されるのだと俺は思っていたのだった。

それが揺らいだのはある一つの出来事があったからだ。
思い出したくない。けれども思い出さなければどうにもならない。レース中、それもインターハイという大舞台の上で俺は取り返しのつかないことをしてしまった。一人の男の選手生命をすら奪ったのだ。それがどれだけ重大なことかなんてわからないはずがない。これを過去のことだと割り切って進んでいいようなことでもないのである。後悔だって簡単に出来ない。
手を伸ばしたあの一瞬に瞼にこびり付いた光がまだ残っている。拭いきれない。思い出すたび、瞼を閉じるたびにあの光景が浮かんでは喉を締め付けられるような思いに駆られる。

「失格だ。」
選手として、やってはいけないことをしてしまった。誰かの将来を奪うという、人間としてしてはいけないことをしてしまったのだ。許しを請うこともきっと許されない。ただただ苦しいばかりでどうしたらいいかわからない。

俺はベッドに腰掛けたままそう言って、深い溜息を吐いて俯いた。
そんな俺をじっと荒北は見つめている。彼がこの部屋に来て口にしたのは「言って楽になれよ」という一言ばかりだった。それ以来荒北は黙り込んでいる。どちらかというと俺の様子を慎重に探っているといった方が近いのかもしれない。
俺もすっかり口を閉ざしたことによって、部屋の中には重苦しい沈黙だけがあった。じわりと痛みが目の奥に広がる。言ったところで苦しいばかりだ。荒北は俺に何を求めているのだろう。俺はもうお前の前で走ることすらーー

「福ちゃん。」
荒北がそこでふと口を開いた。俺は顔を上げる。荒北はローテーブルに肘をついたままこちらを見ていた。笑みもない、かといって俺を哀れんでいる様子も怒っている様子もない。そこに浮かんでいるものが俺には読みとれなかった。
福ちゃん、と荒北はもう一度呼んで。それから俺の目を覗きこんだ。

「お前は強いよ。」
荒北の目には俺の顔が映り込んでいる。青ざめた、ひどく焦ったような表情だ。それを見てなお荒北はそう言うのだ。
「・・・俺は強くない。」
「お前は強い。」
「何でそんなこと、」
「だってお前の前には俺がいるんだぜ。」
何も考えなくていい。苦しいなら目を背けてしまえ。俺がお前の前でひいてやるから。荒北は言った。

「前を見ろ」
そしたらお前が人間やめたって俺はお前をどこまでもひいていってやるよ。
その台詞はひどく聞き覚えのあるものだったが、まるで聞いたことのないもののように俺には思えた。
今度は何も言えなくなって俺は口を噤む。喉に何かつっかえたような顔をしている俺を見て、荒北は少しだけ口の端を持ち上げた。

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