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  <updated>2013-06-11T14:35:56+09:00</updated>
  <author><name>長谷川ヴィシャス</name></author>
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    <published>2022-11-22T11:22:12+09:00</published> 
    <updated>2022-11-22T11:22:12+09:00</updated> 
    <category term="その他" label="その他" />
    <title>15minについて</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[「15分でどこまで書けるかな」をコンセプトに書いた短文置き場です。<br />
思いつくまま書き殴ってるだけ。<br />
<br />
表記が無ければdrはシズイザ、pdrは福荒です。<br />
時々全く関係の無いジャンルが混ざることもありますのでご注意を。<br />
<br />
<br />
]]> 
    </content>
    <author>
            <name>長谷川ヴィシャス</name>
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    <published>2014-10-05T23:59:00+09:00</published> 
    <updated>2014-10-05T23:59:00+09:00</updated> 
    <category term="未選択" label="未選択" />
    <title>夜を飲み込む</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[<br />
<br />
<span style="color: #999999;">※ワンドロのお題。一時間</span><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
「今日は寝ない」とどちらかが言った。その言葉が、自分のものだったのかそれとも相手のものだったのかは二人とも思い出せないでいる。午前四時の窓の外は暗い。朝日が昇るまではまだもうしばらく時間がいるだろう。<br />
ぺら、と紙を捲る音がした。福富がそちらに目をやると、座布団を尻の下に敷いてフローリングに座りこんだ荒北が雑誌を開いているのが見えた。一瞬その頭がぐらりと揺らいだのは、きっと舟を漕いだからだろう。彼は身体を完全にベッドの方に預けていて、ひどく首に負担のかかりそうな体勢でいる。ベッドに寝転がっている福富が隣に来たらいいんじゃないか、と何度か言ったものの「ベッド行ったらたぶん寝る」と言うばかりでその位置から動こうとしないのだ。荒北は時々よくわからないことをする、と福富は内心思っている。そんな辛そうな姿勢でいるならいっそ諦めればいいだろうとそう心の中で呟いてみるが、だがしかしそれを口にも出せない。それがどうしてなのかは福富自身にも、そして荒北にもわからないのだった。枕を背もたれにして、福富は荒北のつむじばかりを見つめている。手に持っている文庫本は、もうずいぶん前から一ページも捲られてはいない。<br />
<br />
「アア、ねっみい」<br />
荒北はそう言って、眠気を振り払うように首を振った。ぐっと真上に両手を持ち上げて、背伸びをする。顎を上げて、思い切り首を曲げた時荒北の目が福富の方を見た。福ちゃん寝てねえだろうな、と荒北が言ったのに福富が頷くと、彼は満足げに目を細める。<br />
「眠いか」<br />
「もう五時前だからなァ」<br />
「少し寝たらどうだ。明日も授業はあるぞ」<br />
「部活ねえからいいんだよ別に」<br />
ねっみい、と荒北はまた言った。彼は首を傾けて頭をベッドに預けると、そのままの姿勢で大あくびをする。手のひらで目を擦りながら、呻くような声を立てる。彼が膝を崩した拍子に、太腿に乗せていた雑誌が滑り落ちていった。<br />
<br />
眠い眠いと言いながらも荒北はまだ寝る気はないようだった。<br />
そして福富にも、そんな気分はなかった。今日荒北のことを自分の部屋へ呼んだのは福富で、本当なら彼に言おうとしていたことがあったからだ。<br />
たった一言である。文字数にするなら二文字。言ってしまえばきっと一秒足らずで終わってしまうような短い単語だ。今までずっと言い損ねてきたその言葉を彼に言うために福富は荒北を呼んだのだが、しかしなかなかそれを言い出せずにいる。あと三十分経ったら言おう。荒北があの雑誌を読み終えたら言おう。この本の、この章が終わったら。それを繰り返している間にいつの間にか時間はどんどん過ぎていった。もどかしい、と思いはしてもそれを言えないのがどうしてなのかも福富にはわからない。口に出そうとすれば舌がもつれる。喉が震えて言えなくなってしまう。<br />
<br />
福富はベッドから足を下ろして、机の方へ向かっていく。脇を抜けるとき荒北が一瞬こちらを見たのにどきりとしたのは、自分の心の中が読まれてしまっていないか不安になったからだ。今から口にしようとしている言葉だということは自分でもわかっているのに、だがこれを相手に悟られるのはどうしても気が引けた。これがあんまりいい感情ではないと彼は思っているのだ。同性の友人でチームメイトで、そして自分のアシストである彼に対して向けるようなものではない。そう彼は自覚している。だがそれでもどうしてだか伝えなければいけないという責任感めいたものも同時にそこにあるから厄介なのだ。<br />
<br />
机の上に載っている缶を手に取る。まだ封の切られていないコーヒーの缶には「ブラック」という文字がでかでかとのっていた。プルタブを引いてそれを開けると、途端にコーヒー独特の香ばしいニオイが鼻をつく。一瞬それにためらって、まじまじと缶の中を彼は覗き込む。真っ黒な液体が、小さな波を立てているのが見えた。福富はコーヒーが飲めない。第一に苦いものが得意ではないのと、それと彼には今一つコーヒーのおいしさがわからないからという理由がそこにはある。それでも彼が今日コーヒーを、しかもわざわざ風味と苦みの強いものを選んだのは、それに対して味だとかそういったもの以外の効果を望んだからだ。彼はまだ、寝ないつもりでいる。<br />
<br />
<br />
「今この寮で起きてんのオレらだけだろうなァ」<br />
缶に口をつけようとしたその時、荒北がそう言った。福富がそちらを向くと、荒北は眠そうに目を瞬かせながらゆっくりと身体を起こしていた。立ち上がる。福富がいる方に彼は近付いてきて、一歩分の距離を開けて立ち止まった。<br />
<br />
「福ちゃんが缶コーヒー飲むの初めて見た」<br />
「&hellip;&hellip;オレも、初めて買った」<br />
福富がそう言うと、けらけらと荒北は笑った。子供舌のくせに、と彼が言ったのに福富が少しむきになって言い返すと、さらにその声は大きくなる。<br />
「福ちゃん、それ飲めんのォ？」<br />
「飲める」<br />
「ホントかよ」<br />
からかうような口調だ。子供扱いするな、と福富が言っても荒北は知らぬふりをしている。目を細めて笑っている男を見つめながら、オレがどんな気でいるかも知らないで、と福富はなんだかそれが憎くなってしまう。<br />
<br />
これを飲みきったらきっと言おう。福富はそう思って、手に持っている缶を少し揺らした。ちゃぷんと缶の中で黒々とした液体が波打つ。<br />
コーヒーを飲もうと缶を持ち上げる。だがそれは、彼の口に届く前に横からさらわれてしまった。<br />
驚いて視線をそちらに向けると、荒北が小ぶりな缶を傾けているのが見える。静かな部屋にごく、ごく、と彼が液体を飲み下す音がする。喉仏が上下するのを見つめていると、飲み終わったらしい荒北がこちらを見て、笑いながらほとんど中身の残っていない缶をこちらへ押し付けてくる。缶を振ってみると、一口ぶんあるかないかぐらいの量だけ残されているのがわかった。どうしてこんなことを、と福富が彼の方を見ると、荒北はその瞬間にぱっと顔を背けて別の方向を見た。<br />
<br />
「五時」と荒北が言う。もうすぐ日昇るなァ、と独り言のように口にして、それから荒北は時計に向けていた視線を福富の方に戻す。<br />
「眠いか、福ちゃん」<br />
荒北はそう言って福富の目を覗き込んだ。その瞬間、福富は「今日は寝ない」といったのが自分だったことを思い出し、そうしてそれと同時に、荒北がどうして頑なに寝ようとしなかったのかを理解した。<br />
「もうずいぶん待っただろ」<br />
荒北はそう言った。<br />
「寝かせてくれよ、福ちゃん」<br />
たった一言だ。言っちまえ。荒北はそう言うと、福富の手元をちらりと見てからまた笑った。<br />
福富は視線を逸らして、さっきの荒北と同じように壁にかかった時計を見た。五時。もうすぐ朝が来る。確かにずいぶん待たせたようだ。<br />
彼は大きく一つだけ深呼吸をすると、それから一気に缶を煽る。口の中いっぱいに広がった味はひどく苦いものだった。それを飲み下す彼の視線の先には、次に彼が口を開くのを今か今かと待っている男がいる。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
]]> 
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    <author>
            <name>長谷川ヴィシャス</name>
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    <id>visious15min.sugo-roku.com://entry/43</id>
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    <published>2014-08-30T02:05:27+09:00</published> 
    <updated>2014-08-30T02:05:27+09:00</updated> 
    <category term="未選択" label="未選択" />
    <title>本能</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[※絵チャでかいてたやつ<br />
<br />
<br />
<br />
気まぐれはいつものことである。<br />
薄暗い部屋で福富は小さく呻きながら、ついさっき自分を蹴り飛ばした男を見上げている。<br />
「ごめんねェ」<br />
でも、痛くはなかっただろ、と悪びれもせず男は言う。福富は黙ってそちらを見て眉を顰めると、確かに痛くはなかったがと心の中で文句を言った。しかしそれを口にしなかったのは彼の中にどこか諦めがあったからだ。口にしたところで、今の状況は変わらないし、そしてアイツが今からやろうとしていることだって変わらない。彼はそう思っていたのだ。<br />
<br />
肘をついて浮かせかけていた身体を床に落として、福富はフローリングに寝そべったまま天井を見上げる。窓の方に視線を向けると、カーテンが開けっ放しになっていることに気が付いた。あのままだと、とふと思ったが、近付いてくる影に気が付いてそれを考えることもやめてしまう。<br />
<br />
不意に、腹の辺りに重みを感じる。そちらに視線を向けると、すぐににたりとした笑みと目が合った。荒北が腹の上で笑っている。荒北は福富の身体に跨ったまま、彼の胸の辺りをなでる。「福ちゃん」と低く鳴るような声で呼ばれて、思わず福富はそちらに顔を向けかけるものの、慌ててその目を逸らして行き場をなくしてまた天井を見る。それを面白がるように笑う声が聞こえた。やめろ、と福富が言った声はかすれていてあんまり効果は見られなかった。荒北は福富が逸らした視線の方向に合わせるようにして、そちらに身を寄せてくる。福富が思わず息を飲んだのは、彼が見慣れない服を身に付けていたからだった。<br />
「好きじゃない、これェ？」<br />
四つん這いになって福富に覆いかぶさった荒北は、そう言いながら、自分の着ている服を引っ張って見せる。ピンクがかった白の、安っぽい布地。加減によっては下の肌の色まで見えてしまいそうなほど薄くて、それでいてサイズが合っていないせいか荒北の身体にぴったりとくっついている。目の端に「コスプレ衣装　ナース」と書かれたビニール袋が放り出されているのが見えた。馬鹿馬鹿しい。そうは思うのに福富はそれに対して何にも言えない。<br />
好きだから具合が悪いんだ、と言うことも出来ずに福富は唇を噛む。荒北はそんな福富のことを知ってか知らずか、もう一度福富にナァと問いかけて、それからまた声を立てて笑った。人の悪い。そんなことを内心で思ってはいるものの、身体があんまり正直で福富は何も言えない。荒北の手が、自分のシャツを捲り上げて自分の腹の辺りを探っている。視線が無意識に自分の脚元の方へ向かって、そこでふと荒北がやっぱりスカートの下に何も履いていないことに気が付いて、深い息を吐いた。<br />
<br />
「福ちゃんだってやっぱ好きなんじゃん」<br />
こんなだし。荒北が言うのを聞いて、思わず顔を上げると、目を細めたままの彼に鼻先を緩く噛まれた。続けてそこをべろりと舐めあげられる。福富が唇を軽く噛んだのに、強情っぱり、と荒北は喉の奥で笑って、それから福富の腹に体重を掛けた。福富がわずかに身体を起こすと、薄い布地の下から持ち上がっている堅いものが腹筋の辺りに擦れて、荒北が少しだけ切なそうな顔をした。<br />
それを見た瞬間、自分の中で何かが弾けるような感覚があって、そのまま福富は手を伸ばす。荒北が笑っていることに気付いた時にはもう手遅れだった。<br />
<br />
「ほら、もっと奥まで」<br />
<br />
<br />
]]> 
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    <author>
            <name>長谷川ヴィシャス</name>
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    <published>2014-07-28T21:28:07+09:00</published> 
    <updated>2014-07-28T21:28:07+09:00</updated> 
    <category term="ｐｄｒ" label="ｐｄｒ" />
    <title>顔【東巻東】</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[言い方は悪いかもしれないが、オレはこの男の顔が好きなんだと思う。<br />
「それでな、巻ちゃん」<br />
聞いてくれ。そう言ってこちらに向けられたその顔が好きだ。「巻ちゃん」の「ま」を発音する時に真ん丸になった口が「き」と口にするときにはにやりと笑ったようになり、「ちゃん」と言い切った時には満足げに閉じられている。まきちゃん、だなんて女みたいな呼ばれ方をしているのにオレが一向にそれをこいつにやめさせられそうにないのは、それを口にする時の表情のどれもこれも二度と見られなくなったらきっと後悔するだろうと思うようなものばかりだからだ。<br />
オレの名前を呼ぶときには大抵東堂はこちらをじっと見ていて、そのはっきりと開かれた目はオレを映している。東堂の目の色は浅い色をしている。怒ったり、興奮したりするとその目の色は濃くなって少し濁ったような色になる。それも好きだ。いつもの澄んだ、何もかもを見通しているようなその目の色も、色んな感情をごった混ぜにしたような強い色もどれもこの男にはよく似合っている。<br />
「聞いているのか」と彼がちょっとだけ眉を寄せるのが見えた。あ、その顔もいいな、とオレは東堂の言葉をどこかよそに聞いている。柳眉って言葉をどこかで聞いたことがあるがもしかするとこういうのを言うのかもしれない。それが男にも使っていい言葉なのかどうかは知らない。だからと言ってオレがこいつのことを女っぽいだとかそういう風に思っているわけでもないから、単にその言葉が東堂という男によく似合うだけのことなのだ。<br />
よくよく見てみれば、東堂はひどく整った顔をしていた。目元はすっきりしているが、それでいてぱっちり開かれた冴えた目をしている。鼻筋は通っていて、唇はオレより厚いがどちらかと言えば他人よりは薄い。頬には無駄な肉がない。だがしかしそこには削ぎ落とされたような雰囲気はなくて、彼の全身と同じようにただ必要なだけの筋肉が付いているのが見えた。頭の形は丸い。広い額はそのカーブに合わせて丸みを帯びた形を作っていて、ふとオレはそれを見ながら、なんだか抱えた時に収まりのよさそうな頭だな、なんてことを思っていた。<br />
<br />
「巻ちゃん」<br />
そう呼ばれてぱっと意識をそちらに戻すと、不意にこちらに手が伸ばされるのが見えた。何か言う間もなくオレはその手に捕まって、ぐいと頭ごと引き寄せられる。<br />
「オレといるのにぼーっとするなよ」<br />
東堂は苦笑するように目元を緩めながらそう言った。その目をじっと見つめながら、ふとオレは何だこいつ自分に嫉妬してんのか、なんてことを考えて一人何だか可笑しくなってしまう。耐え切れずに笑うと東堂は困ったように一瞬目を泳がせて、それからちょっと目を伏せて照れくさそうに自分も笑った。オレが顔をそちらに寄せて額同士をくっつけると、伏せられた睫毛の長さが見えた。<br />
東堂がちらりと上に視線を向けてオレを見る。すぐに逸らされる寸前の、はにかんだようないつもよりも柔らかい笑みがあんまりにも好みでそれがもう一度見たくて鼻同士がくっつくほどに顔を寄せてみたが、その距離に耐えられなかったのか、東堂はすぐにこちらに唇を寄せてきた。思わずオレが目を瞑ると、東堂が喉の奥で笑ったような気配がした。すぐにオレが目を開くと、ついさっきの笑みを浮かべた東堂がいる。ああ悔しいけどやっぱり好きだ。乱すみたいに目の前の男の真っ直ぐな髪を掴みながらくぐもったうめき声をあげる。<br />
「巻ちゃんのその顔、好きだぞ」<br />
そう言った男の目は濁った色をしている。その目に映った自分の顔も大概に溶けたもので、お互い様だとオレは密かに笑った。<br />
<br />
<br />
]]> 
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    <author>
            <name>長谷川ヴィシャス</name>
        </author>
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    <id>visious15min.sugo-roku.com://entry/41</id>
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    <published>2014-07-17T00:26:26+09:00</published> 
    <updated>2014-07-17T00:26:26+09:00</updated> 
    <category term="ｐｄｒ" label="ｐｄｒ" />
    <title>『福富』</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[ポケットに手を突っ込んでみてからやっとそこに入れっぱなしにしていたもののことを思い出した。あー、しまった。そう心の中で呟きながらオレはぐるりと辺りを見渡す。昼休み数分前の校舎内はどこもかしこも騒がしくて、慌ただしく教室の出入り口から飛び出してくるやつらで混み合っているが、しかしその中に目的の姿はない。人波に飲まれないよう通路の端を歩きつつ、オレは並んだ教室の入り口の方に目を向けている。そうしながらもどうにも気になって、ポケットの中のものをついつい指先でいじってしまう。人差し指で滑らかな表面をなぞる。縁を辿っていると、その軽くて小さい円筒状のそれはころころとズボンのポケットの中で転がって、奥の方に滑り込んだりオレの手のひらの中に飛び込んできたりする。<br />
階段の手前で人の流れが切れたのを見て、オレはそっとそれをポケットから取り出してみる。黒一色の、何の飾り気もない判子だ。朱肉と印の部分が一緒になっていて、蓋を開けばそのままポンと押せるよく見る簡単なものである。自分のものではない。普段から持ち歩いていたってオレには必要のないものだし、たとえ必要だったとしてもいちいち持ち歩くほど几帳面な性格でもないからだ。<br />
なんとはなしに蓋を取って、かざすようにして中を見てみるとそこには『福富』という文字があった。こいつはいつ渡されたんだったか。そうだ、昨日のミーティングの後のことだった。ミーティングが終わって、日誌を書き終えたアイツが急にこれを差し出してきたんだ。どうしてだかはよくわからない。筆箱なんかをすっかりすべて片付けてしまった後のことだったから、きっとしまうのが面倒だったんだろうとオレは予想している。案外ずぼらな男である。まぁオレの前でだけでしかそんな姿見せないけど。そんなことをふと考えて、なんだか一人で気恥ずかしいような気持ちになった。まったくどうしようもない。<br />
<br />
「福ちゃん」<br />
教室から出てきた金髪にオレが声を掛けると、福ちゃんはすぐにこちらを振り返った。オレが隣に並ぶと小さく頷いて、そのまま歩き始める。購買、学食、とオレが短く彼に尋ねれば、少しだけ間を置いて学食だと返ってくる。人の多い中を歩いていても、福ちゃんといるとどことなく落ち着く。大股で、しっかりした足取りでずんずん進んでいく男のほんの半歩分後ろを、オレはポケットに手を突っ込んだまま歩いていた。<br />
ふと思いついて、彼のことをもう一度呼んでみると福ちゃんはこちらを振り返って、ほんの少しだけ歩幅を緩める。<br />
「コレ、忘れもん」<br />
オレはそう言いながらポケットの中に入れっぱなしだった印鑑を彼に差し出す。今日だってまた使うだろうし、ないと困るだろ。オレはそう言って、隣でこちらをじっと見つめている福ちゃんの顔の方にそれを持ち上げた。黒の表面が光を反射して鈍く光る。<br />
<br />
だが福ちゃんはそれでも受け取るような気配もなく、ただそれを見つめるばかりだ。それを不思議に思ったオレが首を傾げていると、福ちゃんはオレの目を覗き込んで何か言いたげな気配を見せる。そちらに譲るようにして顎を軽くしゃくれば、福ちゃんはほんの一瞬だけ目を泳がせた後、ようやく口を開いた。<br />
「持っててくれ」<br />
「ハァ？持っててくれって、これ福ちゃんのだろォ」<br />
「構わない。お前が持っていろ」<br />
構わない、っても。オレはちょっと困ってしまって福ちゃんの方を見る。こんなの渡されたってどうすりゃいいってんだ。オレが持っててもこんなの使いようがないだろう。福ちゃんあのさァ、とオレは言いながら彼の隣に並んで、その顔を覗き込んだ。<br />
「オレ『荒北』なんだけどォ？」<br />
オレがそう言うと、福ちゃんはまた一瞬だけ目を逸らした。でもその後すぐにオレの方を見て、わかっている、と落とした声で言った。<br />
「でも、いつか使うだろう」<br />
<br />
今度はオレが目を逸らす番だった。思わず絶句して、よどみない福ちゃんの目から手元の判子に視線を移して、それからどこを見ればいいのかもわからなくなってオレは辺りをぐるぐると見回した。そういえばコイツはこういう男だった。案外ずぼらで、雑で、それでいて思ってもみないことをする。まったくどうしようもない。持ち上げていた手を下げて、オレはそのままその手で頬を撫でる。じわじわ熱くなっていく頭をどうしたものか、オレにはわかるはずもないし、それに目の前で耳を真っ赤にしている男にだってわかりっこないのだ。<br />
<br />
<br />
<br />
]]> 
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            <name>長谷川ヴィシャス</name>
        </author>
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    <published>2014-07-11T00:24:41+09:00</published> 
    <updated>2014-07-11T00:24:41+09:00</updated> 
    <category term="ｐｄｒ" label="ｐｄｒ" />
    <title>夜行バス</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[予約したチケットは一枚。静岡から東京までの往路だけ。<br />
席はバスの前から二番目の窓際で、座席は堅い。ブランケットは付いているが薄くてクーラーの風が直接当たるこの席だとちょっと物足りないように思う。リクライニングもあまり出来ないし、前の席との隙間も狭くて身体を縮めなきゃいけない。居心地はそこまで悪くないが、だが収まりは悪い。朝まで少しでも眠れるだろうか。ただでさえ落ち着かないような気持ちでいるのにこんな席じゃ無理な話かもしれない。荒北はそんなことを思いながら、消灯後の真っ暗な車内で目を開いたままでいる。<br />
<br />
<br />
金曜日の夜中一時に駅を出た東京行きの夜行バスは空いていた。基本的に昼行の方が安くて楽な路線だからかもしれない。それにきっと、ここから東京までなら電車で行く方が速いからだというのが一番の理由だろう。<br />
それでも荒北がこのバスを選んだのは、ふと福富に会いたいと思ったのがもうすでに終電もない時間のことだったからだ。<br />
夕方の六時過ぎに部活を終えてくたくたで帰ってきて、そこから少し眠って目が覚めたのは夜の八時過ぎだった。そこでふと、福富に電話をかけてみようなんて思ったのが悪かった。寝起きでしかも空腹でぼんやりしたまま電話をかけて、そうして電話口に出た彼の声を聞いた途端、もう堪らないような気持ちになって気付けば「今から行くから」なんてことを口にしていた。<br />
<br />
ポケットに携帯電話と財布だけ突っ込んで、履き古したスニーカーを引っ掛けて彼は家を飛び出した。駅の方に走り始めてからふと鍵閉めたっけなんてことが頭を過ったが、角を曲がった時にはもうすっかりどうでもよくなっていて、そのあとすぐに彼の考えはすっかり今から向かおうとしている先のことばかりになってしまう。<br />
<br />
とにかく会いたいと思った。会って、それから後のことは何も考えていない。いきなり抱き付いてキスするような性格でもないし、だからと言って目が合ってもずっともじもじ下を向いていられるようなおとなしい気性は持ち合わせちゃいない。<br />
<br />
（まぁ、たぶん、服ちゃんはびっくりすんだろうなァ）<br />
荒北は暗がりの中で目を開けたままそんなことを考えている。彼はカーテンの掛かった窓に寄り掛かりながら、細く開いた隙間から流れる景色を眺める。靴も靴下も脱いで、床に足を投げ出している。眠気はなんとなくは感じていたが、しかし目を開けていられないほどではない。荒北は窓の向こうで道沿いの街灯がどんどん後ろへと飛んでいくのを眺めながら、今から会いに行く男のことばかりを考えている。<br />
顔を合わせたらまず、福富は驚いた顔をするだろう。もしかすると「本当に来たのか」なんてことを言うかもしれない。それから部屋に入って、アイツにお茶とか出すとかそんな気遣いができるだろうか、まぁそれがなくてもとにかくしばらくは世間話か何かすると思う。そしたらそれから――<br />
荒北はそこまで考えて、不意に気恥ずかしいような気持ちになった。ああなんだか、オレもどうにも単純っていうか、そういうのが目的ってわけでもないのに一度考えてしまうと勝手にそっちに流される。彼は一度目を閉じて頭の中に浮かんだ光景を消してみようとするが、一生懸命にそれを消そうとすれば消そうとするほどどんどんいろいろなことが思い出されてきてしまってどうしようもなくなってしまう。<br />
ハァ、と溜息を吐く。気を紛らわそうと、彼はポケットに入れっぱなしだった携帯電話を取り出して画面に触れる。一通メールが届いているのを開きながら彼は頭を振って、どうにか頭を切り替えようとしていた。<br />
だがそれも叶わずに彼がシートに崩れ落ちたのは、その次の瞬間だった。<br />
<br />
『用意はしてある。身体だけ準備して来い』<br />
<br />
あのバカ、と荒北が頭を抱えていることなんて福富にはわからない。東京に着くまであと五時間近くもあるのに、オレをこんなにしといてどうするつもりなんだ。荒北がそんなことを考えていることにも構わずに夜行バスはゆっくりと進んでいく。<br />
<br />
<br />
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            <name>長谷川ヴィシャス</name>
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    <published>2014-05-19T18:32:01+09:00</published> 
    <updated>2014-05-19T18:32:01+09:00</updated> 
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    <title>「腹減った」</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[「腹が減った」と隣にいる男が言ったので福富は立ち上がるが、準備をし始めた彼を引き留めたのは原因である荒北本人だった。<br />
「どうした、腹が減ったんじゃないのか」<br />
「それは言った、けどさァ」<br />
首を傾げた福富に、荒北はひどく言いにくそうな調子で「そうじゃなくて」と言ってそれからすぐに目を逸らした。何か言うのをためらっては彼は口を閉ざし、ちらりと福富の方を見ては視線をまたよそにやる。彼が言いたいことがよくわからない福富は立ったままそちらを見つめるばかりである。どうしようかと彼は手に上着を持ったままじっと荒北のつむじの辺りばかり眺めていた。<br />
「外に出るのが面倒なら食堂ででも」<br />
「そうじゃなくて、オレが言いたいのは、」<br />
「なんだ」<br />
「何だ、ってお前よォ」<br />
とにかくもう一度座れ、と荒北が言うと福富はおとなしくその言葉に従ったが、しかしやはりまだ納得していないような顔であった。<br />
<br />
ベッドに腰掛ける。福富が腰を下ろした拍子に荒北の体がわずかに揺れた。それと同時に、荒北が買い物に行って帰ってきてからずっと枕の横に放置されたままになっているビニール袋もがさりと音を立てる。腹が減っていたならさっきコンビニに行った時に何か買ってくればよかったんじゃないか、と福富はふと思ったがそれを口にはしなかった。相手が悩んでいるような、困っているような表情をしている時にこんなことを言えばきっと荒北はへそを曲げてしまうだろうと思ったからだ。せっかく今日は休日で、それに二人きりなのだ。機嫌の悪い時の荒北のことだって福富は嫌いではないが、こんなに天気のいい日には機嫌のいい彼と過ごしたいと思う。<br />
そんなことを考えながら福富は黙ってじっと荒北の次の言葉を待っている。荒北はなんだか小難しいような顔をして、膝に肘をついて何か考え込んでいる。少し離れて座っていたのを福富がいったん腰を上げて距離を詰めると、その瞬間に荒北ははっと弾かれたように顔を上げた。目が合う。ちょうど外からの明るい日差しが荒北の左頬の辺りに掛かって、片目だけがきらきらと輝いているように福富には見えた。<br />
何とはなしに上体だけを傾けて荒北の方に顔を寄せてみると、荒北はそれを避けるように身体をのけぞらせる。<br />
「荒北？」<br />
福富が軽く首を傾げると、荒北は目を泳がせて彼から視線を逸らした。目は天井を見て、福富の背後を見る。それからドアの方に向かうと、最後にベッドの上に転がっているビニール袋を見た後また福富の方に視線を戻した。ずっりィ、と荒北が途方に暮れたような声で言う。<br />
「福ちゃんそれ無意識にやってるわけェ」<br />
「何がだ」<br />
「そういうとこだって」<br />
「&hellip;言っている意味がよくわからないんだが」<br />
「かっわいいなァ、ホント」<br />
まるで観念したような言い方で荒北はそう言って、身体を傾けて福富の頬に唇を落とす。がさり、と音がしたのに福富がそちらに視線をやれば、ちょうど荒北の片手がビニール袋を掴んでいるのが見えた。<br />
「オレさァ、腹ペコなんだよ」<br />
荒北がニヤリと笑う。そうしてその後、袋から取り出された小さい箱を見て、福富が赤面したのは言うまでもないだろう。<br />
<br />
<br />
]]> 
    </content>
    <author>
            <name>長谷川ヴィシャス</name>
        </author>
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    <id>visious15min.sugo-roku.com://entry/38</id>
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    <published>2014-02-02T19:43:00+09:00</published> 
    <updated>2014-02-02T19:43:00+09:00</updated> 
    <category term="ｐｄｒ" label="ｐｄｒ" />
    <title>武器</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[<br />
<em>※即興二次小説制限時間３０分で書いたやつ。お題「最強の武器」</em><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
「馬鹿だなぁ寿一は」<br />
呆れたような声で新開はそう言い、目の前にいる男を見る。福富は黙ってそちらを見返して、憮然とした表情をしている。本当に、と前の台詞を強めるように新開が続けると彼の眉間の皺は更に深くなった。自分が何について言われているかわかっていないような表情だ。新開は呆れてちょっと肩を竦めて言葉を続けた。<br />
「寿一ってさぁ、本当に自分のことわかってないよ」<br />
「&hellip;どういうことだ」<br />
「そのままの意味だよ。折角それだけの武器持ってるのに一つも使い方をわかってない」<br />
新開が軽く首を振る。福富は納得いかないとでも言いたげにじっと新開を見詰めて、どういうことだと繰り返した。立ち上がりかける親友をテーブル越しにまぁまぁと止めながら新開は苦笑を滲ませる。普段あれだけ高校生らしくないような落ち着きを見せるくせにこういうところは子供っぽい。珍しく堪え性の無いような様子で苛立ちを隠そうともしないで、福富は厳しい顔をして彼の前に座っている。手に持った空のペットボトルをぼこぼこと音を立てて弄んでいる。ひどく居心地が悪そうだ。そういえば中学のときもいつだってこいつはこういった話題になるとどこかに逃げていってしまっていたなとふと思い出して、新開は何だか一人ちょっとだけにやけてしまう。親友の成長が微笑ましいようなくすぐったいような、それでいてどこか困ってしまうような気分だ。福富は新開のその表情を見て、少しだけまた苦い顔をした。速く続きを、とでも言いたげな視線に促される。やれやれ、と言いたくなるのを口元に笑みを浮かべるだけで止めて、新開はまた口を開いた。<br />
<br />
「まず、アイツはお前のことが好きだ」<br />
新開は断定するようにそう言った。福富がそれを否定しようとする前に言葉を続ける。<br />
「好きじゃないわけが無いだろ。だってそうでなけりゃ毎日毎日あんなに一緒には&hellip;まぁそれはいいとして、前提としてアイツはお前のことが好きなんだ。ここまではいいだろ。それじゃあこれからアイツをどう落としていくか、って話になるんだけどさ、そもそもそういうことはお前は考えなくてもいいんだよ、寿一。小難しいことは考えなくていい。お前はお前のままでいいし、余計なことは一つもしなくていいんだ」<br />
だってそれがお前の最強の武器だ。お前は何もしなくてもあいつにとっての一番の弱点だし、それに何よりお前が一言「そう」だと言えばアイツは何にも出来なくなるんだ。<br />
「いいか寿一。おめさんは何も考えるな」<br />
以上、俺のアドバイス終わり。新開がそう言って肩を竦めると、福富はひどく困ったような顔をして彼を見た。<br />
「終わりか」<br />
「終わりだ」<br />
「&hellip;それ以外は」<br />
「無いな」<br />
「&hellip;」<br />
福富は黙り込んで目を伏せている。こいつに相談するんじゃなかったとでも思っているんだろうか。でも誰に聞いたって同じ答えが返ってきたはずだ、と新開は内心思いながらその姿を眺めていた。答えはすでに出ているのにこいつはずっと立ち止まっているだけなのだ。毎日毎日カップルかそれとも夫婦かとでも言うくらい寮でも学校でも部活中でも一緒にいるくせに、それにあいつのことなら当然俺が一番わかっているという顔をしているくせに、こんなところばっかりはわかっていない。<br />
不思議な奴だ、と新開は首を傾げて彼を見る。<br />
「なぁ寿一、やるなら早くした方がいいんじゃねえの」<br />
今日やるって決めたんだろ。新開がそう言うと福富は顔を上げる。気の進まない様子の彼に、さっきと同じように、「心配しなくていい」と言ってやるとそれから新開はこう言った。<br />
<br />
「代わりに靖友に電話してやろうか？」<br />
<br />
福富は黙り込んでいたが、それからすぐに「自分で探す」と言って立ち上がった。どうやら彼は自分の武器をなんとなく、理解したようだ。<br />
<br />
<br />
]]> 
    </content>
    <author>
            <name>長谷川ヴィシャス</name>
        </author>
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    <id>visious15min.sugo-roku.com://entry/37</id>
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    <published>2013-12-10T20:59:10+09:00</published> 
    <updated>2013-12-10T20:59:10+09:00</updated> 
    <category term="ｐｄｒ" label="ｐｄｒ" />
    <title>ハードボイルド</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[<br />
「監督は何て？」<br />
「一週間の謹慎と、それと次は無いと注意しておけと」<br />
「へえ優しいじゃん」<br />
「少しは反省しろ」<br />
荒北はその台詞に皮肉っぽく笑う。福富が厳しい視線を彼に向けても悪びれた様子もなく、俺は悪くねえんだから当たり前だろと逆に笑みを深める始末だ。部室の床に行儀悪く座り込んだ彼は、片手でアーレンキーを弄びながら福富を見上げる。その頬は赤く腫れ上がっていた。歯が当たって切れたという唇の傷はまだ生々しく血で湿っている。傷口の手当ても適当にしているからきっと明日にはもっと腫れ上がってしまうだろう。福富がちらりと視線でその脇にある救急箱を示してみせるものの荒北はそれには反応しない。意固地である。つい一時間ほど前にそのせいで喧嘩を売られたことをこいつは一つも反省してはいないのだ。<br />
「アイツはどうした」と荒北が尋ねるのに、喧嘩相手の三年の先輩は監督判断で一月は部活に出られないだろうということを伝えると荒北はいかにも楽しげに口元を吊り上げた。殴られた片頬が上手く持ち上がらないせいか、その笑みはどこか不恰好な感じがしてなおいっそう悪気が見え隠れしている。福富が眉を顰めると荒北はそれを見てまた声を立てた。<br />
「傷は痛むか」<br />
近付きながら福富がそう尋ねる。あと一歩の距離まで寄ったところで荒北は立ち上がって福富のほうを振り返った。口は先ほどとは打って変わって不機嫌そうにへの字に歪められている。何も言わないところを見るとまだ痛むらしい。<br />
「口の中切って話しにくい」<br />
「喧嘩の原因は？」<br />
「あいつが吹っかけてきたんだヨ」<br />
荒北のその口調はひどく剣呑なものだった。その中身を聞いているんだ、と福富が言ってもそれに返答する気は無いらしく、ただ不機嫌そうに眉を寄せている。<br />
「もう喧嘩はするなよ」と福富が言うと、荒北は面倒くさそうに福富のほうに目をやった。<br />
「何でお前に指図されなきゃいけねーんだよ」<br />
「お前は俺が連れてきたからだ」<br />
「ハッ、俺はお前のモンってか」<br />
「違うか」<br />
「全くどうしようもねえ奴だな！」<br />
荒北が愉快そうにそう笑う。否定しないあたりお前もだろう、と福富はつい先ごろ自分が飼いはじめた躾の悪いペットを見る。気性の荒い、我の強い生き物である。しかし自分だけにはこいつはこういう顔を見せるのだ。福富はふとそう思って、自分の中に得体の知れない感情があることに気が付いた。<br />
<br />
「二度とするなよ」<br />
「もし喧嘩したら？」<br />
「俺がお前を殴る」<br />
「アア、それは悪くねえかもなァ」<br />
荒北はそう言ってから唇の傷を舐めた。思わず目を逸らした福富の視界の端で、荒北が口の端を吊り上げていた。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
]]> 
    </content>
    <author>
            <name>長谷川ヴィシャス</name>
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    <id>visious15min.sugo-roku.com://entry/36</id>
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    <published>2013-08-23T00:52:29+09:00</published> 
    <updated>2013-08-23T00:52:29+09:00</updated> 
    <category term="ｐｄｒ" label="ｐｄｒ" />
    <title>けなげなひと</title>
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      <![CDATA[R18のためワンクッション<br /><br /><a href="http://visious15min.sugo-roku.com/%EF%BD%90%EF%BD%84%EF%BD%92/%E3%81%91%E3%81%AA%E3%81%92%E3%81%AA%E3%81%B2%E3%81%A8" target="_blank">つづきはこちら</a>]]> 
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            <name>長谷川ヴィシャス</name>
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